過去ログ - 屋上に昇って
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256:名無しNIPPER[saga]
2015/12/05(土) 20:23:28.54 ID:ql/eIKo9o


  
 ……映画。

 そういえば、遊馬兄の部屋に入ったことがある。

 お調子者、三枚目って感じの印象だったけど、彼の部屋には洋画のDVDや翻訳小説なんかが小奇麗に並べられていた。
 部屋の片隅においてあったアコースティックギター。「インテリアだ」って本人は笑ってたけど、ちょくちょく触っていたみたいだった。
 
 漫画やアニメをけっこう見ていたから、なんとなくそういう趣味の人なんだと最初は思った。
 よく話を聞いたら、そういう趣味の友達に勧められて観たり読んだりしはじめたんだと言っていた気がする。
 べつに嫌いでもないけど、その友達がいなかったらそんなに興味もなかったと思う、って、そう笑ってた。

 俺がやっていたようなゲームを持っていたけど、それだって「子供の頃からやってるシリーズだから」って言って笑ってた。

 一度だけ、彼がギターを弾くのを見せてもらったことがある。
 そんなに上手でもなかったけど、だからといって下手でもなかった。

 遊馬兄は、他人の趣味や特技に関心を示したりすることはあったけど、自分の趣味を他人と共有したりしようとはしなかった。

 そういうことをなんとなく思い出す。
 お調子者で、突拍子もなくて、何も考えてなさそうで、いつも楽しそうな変人。

 それなのに今にして思えば、彼はいつだって、他人との距離感みたいなものを意識していたみたいに思える。
 他人との距離をはかって、一定に保とうとしているかのような。
 どこまで踏み込んでいいのか、どこから踏み込んだらまずいのか、常に気にして、一線を保とうとするような。

 あの頃の彼の年齢を思い出すと、それを今の自分が上回ってしまっていることに愕然とする。

 俺が見ていた彼は、今の俺なんかより、ずっとずっと大人みたいに見えたのだ。
 みんなと一緒にいると楽しそうに笑っているけど、ふと気付くと、とても寂しそうな顔をしたりしていて。
 それを見ているこっちに気付くとなんでもなさそうに笑うから、気のせいだったのかって納得したりして。

 あの人は、本当に俺が見ていた通りの人だったんだろうか。
 そんなことを思う。





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