272:名無しNIPPER[saga]
2015/12/07(月) 23:07:00.17 ID:NdAUtaeco
答えられずに、話をする。
「遠足が、あるだろ」
「……遠足?」
「そう、遠足。バスに乗って、みんなでどこかに行くんだ。楽しげに童謡なんか歌いながらさ。
どっかの丘の上の自然公園とかだ。ついたらアスレチックで遊んだり、シートを広げてお弁当を食べたりする」
「……それが?」
「行きの道の途中で、車に轢かれた猫の死体があったら、どんな気分になる?」
「……どんな?」
「みんな、どんな気分なんだろうな? 俺はそれを上手く想像できないんだ。
いたたまれなさ? 水を差されたような居心地の悪さ? もっと素朴に、"かわいそう"って同情するのか?」
「さあね」と鷹島スクイは鼻で笑う。
「楽しい遠足の途中に一瞬だけ猫の死体が割り込む。そうすると俺は、もうその遠足を、素直に楽しむことができなくなる」
だってそこで、その日、猫が一匹、死んでいたんだ。
「でも、じゃあ、その死体がそこに転がっていなかったら、ずっと楽しい気分のまま遠足が終わるのかな?」
鷹島スクイは答えない。
「だって、猫は死んでるんだ。どこかで死んでるんだよ。いつも。じゃあ、幸せを感じることなんて、不可能じゃないか?」
ずっとずっと、いたたまれなさと、居心地の悪さと、同情とが、邪魔をする。
自分が何かを楽しんでいるとき、その裏側に、誰かの悲しみがあることを想像する。目に見えなくても、それはいつでもそこにある。
「おまえ、変だぜ」と鷹島スクイは笑った。
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