過去ログ - 屋上に昇って
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62:名無しNIPPER[saga]
2015/11/15(日) 19:13:29.77 ID:ZQjZY+y8o

「きらきらじゃなくなってしまった世界。楽しいことが過ぎ去っていく世界。なにもかも悲しくて悲しくてとてもやりきれないだけの世界。
 いま、おまえが言ったのは、そういう世界のお話だ。違うか?」

「違わない」

「じゃあ、賭けをしようぜ、タクミ」

 そう言ってやつは、猫の肉球で俺のうなじをパンチしはじめた。くすぐったい。

「この世は本当に、なにもかもやりきれないだけの、退屈なだけの世界なのか?
 それとも、世界はもっときらきらしていて、ドラマティックで、素晴らしいものなのか?
 どちらかが真実で、どちらかが嘘なのか?」

「……は?」

「世界は、退屈か? それとも、きらきらか? そういう賭けをしようぜ」
 
 季節は初夏。けだるい土曜の午後、天気は晴れ、部屋には人間が二匹と猫が一匹。
 くしくも、夏への距離は遠くない。

「……何を、どう賭けるんだよ」

「おまえが勝ったら、なんでも言うこと聞いてやる。俺が勝ったら牛丼おごれよ」

「勝敗の基準は?」

「簡単だろ。これからおまえの日々に、きらきらが起こるかどうか、だ」

 きらきら。きらきらってなんだよって思った。どういうことだよ、きらきらって。
 でも、

「いいよ」って俺は頷いた。

 こうして、この土曜、まどろんだような心地のまま、俺とゴローの賭けははじまった。
 べつに深い意味なんてなかったんだけど。




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