過去ログ - 屋上に昇って
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981:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 00:53:54.33 ID:PCQym4Teo

「あの日、川のそばに近付いたのは、孝之だ。葉風はそれを止めにいった。
 俺はそれを知っていた。孝之だって、自分で分かってるはずだと思った」

「……」

「でも、違う。あいつは本気で、葉羽が時計をなくしたんだと思ってる」

「……」

 記憶は作り物だ。揺らぎやすくて、すぐに変化する。
 
 過去の記憶はいつだって、現在に都合のいいように書き換えられている。
 誰だってそうだ。出来事の記憶の比重は人によって異なる。その細部だって、遠ざかればまったく違う形になる。
 
 俺が第一――当時の第二文芸部の部室に、『鷹島スクイ』の原稿を置きに行ったとき、部室には嵯峨野連理しかいなかった。

 嵯峨野は例の部誌を見て、呆然としていた。

 俺は仕方なく声を掛けた。嵯峨野は、処分してくれ、と言った。
 お願いだから、こいつをどこかに捨ててくれ、と。そのときに俺は、彼からいくらか話を聞かされた。

 及川ひよりの書いた原稿は、嵯峨野葉羽の死の遠因が、腕時計にあるとしていた。
 でも、嵯峨野連理は、そうではないことを知っていた。その腕時計は、その日、嵯峨野葉羽の部屋にあったからだ。




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