2: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:41:22.24 ID:63ZhaU+S0
「藤原」
僕の事務的な響きを持った呼びかけに彼女、藤原肇はやわらかく微笑んで「はい」と短く返事をした。
3: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:42:35.64 ID:63ZhaU+S0
「なんでしょうか、プロデューサーさん」
彼女は声も流麗で、聞く人の鼓膜をやさしく揺らす。
僕は歌の仕事を勧めるも、まだ私には早いですとの一言で逃げられてしまう。
4: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:43:10.10 ID:63ZhaU+S0
陶芸を悪く言うわけではないが、はっきり言って真逆の世界だ。
芸術とエンタメ、似て非なるふたつ。
なぜアイドルになろうとしたのか。
5: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:45:18.06 ID:63ZhaU+S0
「憧れの世界に挑戦することにしました」
オーディション会場で何人から何度も聞いた言葉。
6: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:46:03.37 ID:63ZhaU+S0
落ち着いてから自分が担当になるということを伝えると、深々と頭を下げるので、ついこちらも同じように下げた。
「真面目そうな方でよかったです」
7: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:47:06.83 ID:63ZhaU+S0
「えっと……なにか用があったんじゃないんですか?」
「あぁ、いや、呼んだだけ……」
8: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:48:40.60 ID:63ZhaU+S0
「むぅ……プロデューサーさんはすぐからかうんですから」
普段、冗談とか人をからかうなんてことは滅多にしない。
なのに彼女に対してついやってしまう。
9: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:49:31.26 ID:63ZhaU+S0
「ちゃんと呼んでくれないと次は返事しませんから」
随分とささやかな抵抗をする。
あまりにも子供じみていて、おかしくて、つい口元を押さえて小さく笑ってしまった。
10: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:50:07.36 ID:63ZhaU+S0
しかし、一回りも歳の離れた娘を名前呼びするのはいささか抵抗がある。
まるで思春期の男子のようで、背中に綿を出し入れされているような感覚に襲われる。
「どうせなので私もPさんって呼ばせてもらいますね。だってフェアじゃないですから」
11: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:50:51.58 ID:63ZhaU+S0
少しやりすぎたかと反省するも、やはり彼女の不服顔は愛らしさがある。
チワワが吠えてもあまり怖くないように。
もちろん本気で怒っているわけではないだろうが。
12: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2015/12/08(火) 21:52:08.06 ID:63ZhaU+S0
藤原、と呼びかけるも応答はなし。
彼女は頑固だ。
それも自他共に認めるほどの。
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