444: ◆pOKsi7gf8c[saga]
2016/04/03(日) 22:45:49.81 ID:S7IZuXaP0
「少尉、アレです!」
基地の正面玄関までやってきた日下部は、目の前の空間に向かった指を差し向ける
そこにはヘッドライトが付いたままの一台の軍用車が停めてあった
前面に伸びたボンネットと特徴的な丸型のヘッドライト、背面に補助タイヤが備え付けられたその車は、何時ぞやか乗せられたことのある懐かしい顔だった
「アレは……」
「技術部の倉庫から黙って借りてきたんす」
「バレたら大目玉食らうんで、早く乗り込んでください」
質問する時間を与えないとばかりに、それだけ言った日下部はさっさと運転席の方へと行ってしまった
直感的に嫌な予感がして最後に乗ったときの事を思い返そうとするが、どうにもハッキリと思い出せない
『どうでも良いか』と独り言ちして、運転席に座って手招きをする日下部に促されるままに、その傍らに腰を下ろす
「じゃあ、飛ばしますんで」
「しっかり捕まってて下さいっす」
シートに取り付けられたベルトを締めると、隣から少し声色が変わった日下部の声が聞こえる
その瞬間に、さっきまで霧がかかっていたようにボヤけていた記憶が鮮明に蘇ってくる
そして、唐突に理解した
先ほどの自分は決してこの車の事を忘れていたのではない、思い出したくなかったのだと……
「おい、待て……」
今ならまだ間に合うと、制止の声を掛けようする
だが、ハンドルを握った隣の部下に届くことはなかった
甲高いスキール音を立てながら、旧式の軍用車は夜のとばりの中へ飛び出していった
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