552: ◆pOKsi7gf8c[saga]
2016/06/18(土) 22:49:59.92 ID:urIs08YJ0
「……この距離ならまだ撒ける」
「幸い今までの記録からもヤツの船足はそこまで速くない」
「全速力で基地まで逃げ出せば、単騎での追走は諦めるはずだ」
その疑問に、現状で考えられる最善の行動を答える
ひねりだす言葉ひとつひとつが艦橋の空気をさらに冷え切ったものへと変える
彼らがこんな答えを求めているわけでないことは重々承知であった
「しかし、それでは……」
予想通り、レーダーに目を落とす大久保が言葉を濁ごす
それ以外に助かる望みが薄い事は、多くの敵を観察してきた観測手として、よく分かっているのだろう
反論するでもなく、頭をうなだされていた
「そんな……何を言ってるんだ!」
そんな沈黙に対して反論するように井上が吠えた
「それじゃあ、ここまでやってきた意味は!?」
「尻尾を巻いて逃げるためにここまでやってきたのですか!」
半身を翻し、殆ど片手で舵輪を握っているような格好でこちらに詰め寄ってくる
頭部から流れる血は額を伝って目尻にまで達していた
「……すまない」
わずかに捻りだしたそれが、目の前の男に返せる精一杯の言葉だった
その言葉に井上は絶句する
血に塗れの顔に光る双眸には、何処かで見たことのある表情をした男の姿が映っていた
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