654: ◆pOKsi7gf8c[saga]
2017/01/15(日) 12:43:14.46 ID:riSoZa5X0
「……随分、汚れていたな」
つい今しがたまで磨いていた石碑に向かって呟く
ブラシで擦った表面には長年の風雪でこびり付いていた土や泥が汚れとなって浮かび上がっていた
黒くなったブラシを桶に戻すと、別の桶から柄杓ですくった水を目の前の石碑にかける
「綺麗になったぞ」
元の淡灰色を取り戻した御影石に『下山田』という文字が姿を現していた
辺りをそよぐ風が、自分が置いた線香の香りをまき散らす
昼の日差しに照らされたそれは、輝くような白を取り戻していた
そんな白に目がくらみ、伏見がちに目を逸らすと、
「待たせて……悪かったな」
下山田の墓に向かって謝った
人によってはこんなことをしても無駄だと言うだろう
彼の体は今でも海の底に沈んでいるし、戦没者の慰霊碑だって別にある
自分にもそんなことは分かっている
ただ、1人になれる場所でアイツと向き合いたかったのだ
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