過去ログ - 四条貴音「おのまとぺをご一緒に」
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5: ◆8HmEy52dzA[sage saga]
2015/12/18(金) 19:04:02.03 ID:cSL4roIE0
「はいよ、お待たせしました」
店主が注文のらぁめんを『ごとん』と目の前に置きます。
ここはわたくしが響と共に見つけた、お客は少ないけれどとても美味ならぁめんを提供してくれる隠れた名店です。
あいどる活動をすると、世間一般に顔と名前が知られてしまいます。
響などのあいどるの友人ならばともかく、殿方であるあなた様と一緒に食事をしているところを見られるだけで下世話な噂をされることもあります。
春香は有名税だと言っていましたが……世知辛いですね。
ご飯くらい普通に食べたいのですが。
「いただきます」
「いただきます」
感謝の意を込め、『ぱん』と手を合わせ割りばしを『ぱきん』と割る。
「貴音、最近アイドル活動の方で何か困ってることとかないか?」
響と美希、そしてわたくしは他事務所から現在の765プロダクションに移籍してきた、という経緯があります。
なので、少々遠回しに言ってはいますが、これはあなた様なりの気遣いなのでしょう。
「いえ、あなた様を含め皆様方からとてもよくしてもらっていますよ」
「そうか、ならいいけど」
「それどころか、社長並びにあなた様には心から感謝しています」
「は、はは……面と向かって言われると……照れるな」
『ぽりぽり』と気恥ずかしげに頬を撫ぜるその様は、とてもあなた様らしく。
わたくしがもう一度あいどるを営むことができるのは、他の誰でもありません。
わたくしを拾ってくれた社長と、そして、導いてくれたあなた様のおかげなのですから。
わたくしの、過去。
『じくじく』と嫌な感情が身の中心から滲み出て来る気配がします。
正直なところ、わたくしはあいどるを営むこと自体、あまり好きではありませんでした。
人前に出て歌い踊る……煌びやかで華々しい、『ぴかぴか』な存在です。
だからこそわたくしのような大柄で食い意地の張った女には似合いませんし、性格的にも合うとは思えませんでした。
その証拠に、初めて所属した事務所では当時の社長の考え方と合わないのもあり、あいどるが苦痛に感じることさえありました。
響と美希がいたから、何とかやめずにはいられましたが……。
ですが、あなた様と一緒に行うあいどる活動は、全くの別物でした。
あなた様と一緒にいるだけで『わくわく』したのは本当のことで。
あなた様から与えられた『きらきら』は、どんな物語よりも雄弁にその素晴らしさ語る。
と同時に、可能性を示してくれました。
あいどるとしての道と、生涯における大切な岐路を。
「何やってるんだ、貴音? 麺伸びるぞ」
「……おっと」
考え事をしながららぁめんを食べても味がぼけてしまいます。
すぅぷを吸い切って『ずるずる』伸びたらぁめんほど悲しいことはこの世にありません。
しばしはらぁめんに集中するとしましょう。
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