過去ログ - 鷺沢文香「バウムクーヘン」 -SS速報VIP

過去ログ - 鷺沢文香「バウムクーヘン」

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1:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:03:20.93 ID:qNzipt980
鷺沢文香さんが前髪を上げたり下ろしたりするやつです。

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2:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:04:21.23 ID:qNzipt980

「何がいったいどうしてなんだろう。昔から私は何を考えているのかわからないと言われてきました」

「文香ちゃん、なに考えてるかわかんないんだもん！と初めて言われたのは小学生の頃です」

3:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:05:22.57 ID:qNzipt980

　ライブが終わって、確かに私は充足感に包まれていました。

　やり切った。
　汗がダクダクと流れます。

4:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:08:00.49 ID:qNzipt980
　
「お疲れ様、文香。どうだった？」

　共演した奏さんは、こういうことには慣れているんでしょうか？　

5:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:09:32.20 ID:qNzipt980

　この世界では過ごした年月よりも経験の濃密さがものを言うのだな。

　外に向けてきた感情の総量。それが私には大きく足らないように思えて。

6:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:10:10.71 ID:qNzipt980

「誰かに見られたいっていう欲は、あったかもしれないわね」

「誰かに見られたい……」

7:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:11:47.32 ID:qNzipt980

　ヘアメイクの力で上げられた前髪がさらさら揺れて、それでも視界を邪魔することはない。

　なんとも言えず不安だけれど、奏さんはしっかり私の目を見て話します。

8:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:12:32.76 ID:qNzipt980

「ほら、プロデューサーさんたちが迎えに来た。そろそろ行きましょう？」

「奏さんは今、恋をしているんですか……？」

9:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:13:25.17 ID:qNzipt980

「ねぇ文香。目は口ほどに物を言うって本当なのね。貴女の目、本当に綺麗よ」

　思わず前髪を撫でつけるけれど、綺麗にセットされたそれが目を隠してくれることはなくて。

10:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:14:28.44 ID:qNzipt980

「うわっ、文香、顔真っ赤」

　無遠慮にプロデューサーさんはそういうから、流石にむっとした。

11:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:15:08.20 ID:qNzipt980

「わかった。なんでも言うこと聞くから、機嫌直してくれよ」

「今、なんでもっていいましたね……？」

12:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:15:47.66 ID:qNzipt980

　手元のスマートフォンで値段を確認したプロデューサーさんは、すっとんきょうな声を上げる。
　なんだか可笑しくって少し笑ってしまった。

「この近くの古書店に有りましたから……行きましょう。今すぐ」

13:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:17:15.81 ID:qNzipt980

　街は一面クリスマスムードが漂っていて、あぁ今日はクリスマスなんだな。

14:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:18:30.01 ID:qNzipt980

　彼から全集を二冊受け取って、ずしりと腕が重たくなります。

　小さなころ、大好きな両親にクリスマスプレゼントとして大きなハードカバーの本を貰って、とても嬉しかったのを思い出しました。

15:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:19:23.10 ID:qNzipt980

　前髪が伸びてから、初めてきちんと見た顔は、きっと彼です。
　叔父のお店で店番をしていたら、急に彼が前髪をかきあげて。

16:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:20:00.92 ID:qNzipt980

　それから、私は、私の心はなにか変わったのだろうか。

　結局、いつもは前髪を下ろして、私を隠して、なにも見ないままだった気がする。

17:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:21:13.29 ID:qNzipt980

　LEDに彩られた街を、私たちはゆっくりと歩く。

　きっと彼が私の歩調に合わせてくれていて、優しいのは彼のほうでした。
　彼はこれまでずっと私に優しかった。

18:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:22:18.24 ID:qNzipt980

　いつのまにか、プロデューサーさんは少しずつ私の前を歩いていました。

　彼が早足になったんじゃなくて、私の歩くのが遅くなったから。

19:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:23:21.76 ID:qNzipt980

　私の心は臆病だから、彼に駆け出そうとしても、脚が震えた。このままではダメ。

　私の心は臆病だから、彼を呼ぼうとしても、口がパクパクと震えるだけ。
　このままでは、ダメだ。

20:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:24:20.75 ID:qNzipt980

　彼のことをちゃんと知りたい。

　臆病な私は、言葉ではうまく言えないけれど、だからこそ、まずは私と目を合わせて。

21:名無しNIPPER[saga]
2015/12/24(木) 20:25:34.94 ID:qNzipt980

　彼は本当に私が後ろに行ってしまったのに気づいてなかったらしくて、肩で息をする私のことを心配してくれました。

　ずるいですよね……なにも見ないでいたのに。

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