71:名無しNIPPER[saga]
2015/12/25(金) 23:03:57.09 ID:lWDqkljoo
◇ ◇ ◇
ひどい有様でした。
美しい金髪は風に煽られてぼさぼさ。
元々煤まみれだった服もカボチャの実やら種やらで黄色く汚れています。
革靴は片方が何処かへいって、残った一つも底が剥がれていました。
「……何やってるのさ、シンデレラ」
「魔法使いさんっ!」
泉の畔に降り立つと、シンデレラは息を切らしながら声を上げました。
丸い頬を汗が滴って、肩は荒い息で弾んでいます。
「……舞踏会はどうしたの。君ならきっと王子様だって」
「行ってきた! 楽しかった! 格好良かったわ! 手を差し出された瞬間、とってもドキドキしたの!」
「なら」
「でも気付いたの。私はもっとドキドキする瞬間を知ってるって」
シンデレラが顔を上げて、少年を真っ直ぐに見つめました。
「ねぇ、どうして私にあんな素敵な魔法を掛けてくれたの?」
「どうしてって……師匠に言わ」
「うそ。綺麗って言ってた! 私の事が好きなんでしょう?」
少年の口が思わず止まります。
赤くなる顔を隠そうと、少年は慌てて帽子の鍔を下げました。
「……なっ、何でそんな風に思ったのさ!」
「私もあなたの事が好きだから! もしそうだったら、とっても素敵だわ!」
下げたばかりの鍔を上げます。
少年はぽかんとした表情。少女は嬉しくて堪らないような表情。
ぽちゃん。
泉の何処かで魚が跳ねました。
◇ ◇ ◇
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