過去ログ - モバP「15年ぶりの鷺沢文香」
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24: ◆Freege5emM[saga]
2016/01/03(日) 17:41:01.49 ID:d/9JR/ulo




俺は文香の問いに、口をもごつかせることしかできなかった。



文香をアイドルにしたことは、間違いだったろうか。

俺にスカウトされた当時、文香は19歳の女子大生だった。
そこから、一生でもっとも心身の瑞々しい数年を、
芸能活動のため、文香に捧げてもらった。



「申し訳ないが……後悔は、ある」



俺がやっと絞り出した声へ、文香は静かに応じた。

「貴方と出会った当時の私は、紙魚(しみ)のように、ただ紙にかじりついている本の虫でした。
 そんな私を、貴方は、ステージや銀幕へ導いてくださいました。
 長くは、続けられませんでしたが……胸を張れる結果を出せたと、そう思います」
「……そうか」



「そしてその結果は、偏(ひとえ)に、貴方のプロデュースの賜物です。
 それでも、貴方は……後悔しているとおっしゃるのですか」

文香の言うことは、妥当かもしれない。

鳴かず飛ばずのまま埋もれていくアイドル候補生が多い中、
文香は短い間とはいえ、芸能界の最前線で輝いていた。

「俺も、文香が東京を去って数年ぐらいは、プロデュースに成功したと自負していた」

文香の芸能活動は、商業的な成功か失敗かでいえば、確かに成功といえるだろう。

詮のない話だが、もし失敗していたら、
もっとすぐに素直に謝って、こんなにこじらせることはなかったかも知れない。



「でも、文香が大学で文学を続けてると聞いてから、
 俺はもっと根本的な問題を無視してたんじゃないか、という気がしてならない」

文香が、アイドルとして成功したかどうか――それよりも。
そんな皮相的な話ではなく、もっと本質的な話。



「俺が鷺沢文香を、神保町の古書店から芸能界へ連れ出したのは、
 果たして正しかったのか……そういう話だ」



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