4: ◆Freege5emM[saga]
2016/01/03(日) 02:07:30.35 ID:d/9JR/ulo
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「アレは鷺沢の代表作で……取ってきた直後は、私も担当Pとして鼻高々でした。
しかし今振り返ると、アレが女優生命を縮めてしまったんじゃないか、と思います」
映画でもドラマでも、あのイメージ――素の文香――のようなニッチな役は、需要が少ない。
その上、アイドルからいきなり女優という転向で、演技の経験も不足していた。
演じられる役の幅が狭く、すぐに馬脚を露わしてしまい、仕事がどんどん減ってしまった。
「最初はステージで歌って踊るアイドルをやらせていたのに、
下積みも無しでいきなり女優にしてしまって。彼女には、苦労をかけました」
仕事が減っていくに連れて、文香の芸能活動に対する意欲も冷めていった。
無理もなかった。俺の無茶振りに付き合わされて、それに必死でついていったら、あの有様だ。
ならば、文香をアイドル路線へ戻してやれば良かったのか。
それも、なかなかできない相談だった。
アイドルから女優へ、ヨソの部門のパイを強引に荒らしてからシレッと路線を戻す……
もし文香が女優として完全に失敗していれば、そんなマネしても臆面は無かった。
が、曲がりなりにもヒットさせてしまった。女優路線ならもっとうまくいくんじゃないか。
俺を含めた文香の周囲がそう思って、『あの当たりをもう一度』と、守株に傾いてしまった。
つまりは、プロデュースする側の都合だった。
あの映画から数年後、文香は引退を申し出た。
俺は引き止めた――今思い出すと、見苦しく思えるほど――が、文香を翻意させられなかった。
『もう私は、貴方の期待に応えるのが難しいと、そう思いますから……』
この言葉から、文香が包んでくれたオブラートを剥がしたら、
『もうついて行けない』ということだろう。
文香は東京を離れ、地元・信州の大学に戻ったと聞いた。
俺が文香について知っているのは、そこまでだった。
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