過去ログ - モバP「15年ぶりの鷺沢文香」
1- 20
7: ◆Freege5emM[saga]
2016/01/03(日) 02:10:44.02 ID:d/9JR/ulo



彼との会話が終わって数日後。
俺は、文香が勤めている大学の職員名簿を調べた。

文香の肩書には『准教授』とついていた。専門分野は日本の古典文学らしい。
論文のタイトルを流し見してみた。いつの時代の日本文学かさえ分からなかった。

文香は芸能界から遠く離れた世界へ進んだのだ――その事実が、俺の内心を鈍く打ち据える。

文香にとって、俺の元でアイドルをやった経験に、何か意味はあったんだろうか。
文香の名前にくっついている肩書は、何も答えてくれない。
この教員紹介の欄だけを見た人は、まさかこの教官が元・アイドルとは思わないだろう。



俺は躊躇(ためら)った末に、文香が教鞭を執る大学へ連絡を取った。



文香と直接話すことはできなかった。俺は、自分の連絡先だけ伝えておいた。
すると半日ほど経ってから、俺の端末へメッセージが届いた。

『時間の都合がつけば、ですが――』

たったこれだけの枕詞のあとに、面会可能な日時だけが淡々と列記されていた。

文香は、俺に何か話すことがあるらしい。
そしてそれを聞くには、膝を突き合わせる必要があるようだ。
年配でもテレビ電話に抵抗がなくなった今の時代に、ゆかしいことだ。

俺は自分のスケジュールを、目を皿にして眺めた。
文香は何を話すつもりなのか。



端末越しのやり取りで日時を取り決める。
面会の日、俺は無理を利かせて仕事を切り上げ、東京から長野へ向かった。

信濃路へ向かう特急は、半世紀前のあずさ2号よりだいぶ早くなっていて、
文香とのことを思い出し切る前に、俺を長野まで届けていた。



特急を降りると、すっかり日が暮れていた。これは予定通りだ。
大学の先生は、時間に融通が利かないらしく、
文香が面会の候補に上げた時間帯は、どれも夕方か夜だった。



長野駅前には、噴水に囲まれて高々と立つ女性の立像がある。
名前は『如是姫』と言って、当地の名刹・善光寺にちなんだ像と聞いている。
『如是』は、是(これ)の如(ごと)く――望みのままこのように、という意味らしい。

文香が指定した待ち合わせ場所は、その像の前。

チョイスに皮肉めいた響きを感じるのは、
俺が文香に対して後ろめたさを背負っているせいだろうか。




<<前のレス[*]次のレス[#]>>
45Res/33.76 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice