9: ◆Freege5emM[saga]
2016/01/03(日) 02:14:19.91 ID:d/9JR/ulo
●
文香に合わせて足を止めると、そこから古色蒼然とした日本家屋が見えた。
暖簾(のれん)がなければ、店と分からなかっただろう。
その暖簾をくぐってみると、室内では、ぼんやりとした闇と明かりが揺らめいていた。
和紙に包まれた灯明――骨董屋以外ではとうに消え失せた蝋燭の行燈が、照明に使われているらしい。
「今時、こんな店があるのか。まるで『陰翳礼讃』の世界だ」
「普段、眩しいステージをご覧じるプロデューサーさんには、物足りないかも知れませんが」
明と暗の境界が朦朧とした空間を、文香はしずしずと進む。
おそらく、彼女のお気に入りの店なのだろう。
「いや、このお店は好きになれそうだ。
最近、スポットライトの光線が網膜にきつくて、
かえってこういう趣が分かるようになってきたところなんだ」
俺も少しは繊細になったのかな、と呟くと、文香は口元を隠した。
なんだ、笑われてしまったのか。そんなに面白い諧謔だったとも思えないが。
45Res/33.76 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。