2: ◆Freege5emM[saga]
2016/01/03(日) 17:36:05.53 ID:d/9JR/ulo
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「ほら、志希。おかゆ作ったから。何か食べないと、風邪が治らないぞ」
「……タバスコは……?」
ベッドからもぞもぞと聞こえてくる志希の声は、
いつもの挑発的な軽快さを失い、代わりに退廃的なハスキーさを得ていた。
「タバスコってお前。風邪引いてる時は、粘膜が弱るんだぞ。
生姜効かせておいたから、それで勘弁しろよ」
「それはショウガオールだよ……あたしが欲しいのは、カプサイシンなの……」
「しょうがないな」
おかゆの白く濁った水面に、タバスコの赤く酸っぱい色が数滴滲んだ。
そんな異色のおかゆをモソモソと舐めているのが、俺の担当アイドルの一人・一ノ瀬志希である。
志希は今季、アイドルとして大きな飛躍を遂げた。
アイドル総選挙では、並み居る先輩をごぼう抜きして最上位層に肉薄した。
CDを出せば、売上ランキングの上位に自分の曲をねじ込んだ。
事務所のクリスマスイベントでは、シンデレラガールたちを差し置いてメインを務め上げた。
そんな大活躍の志希だが、今までにない大きな仕事と過密なスケジュールをこなしたせいか、
今年最後の仕事を終えるとともに、体調を崩してしまった。
「なんだか……今日のキミはやさしーねぇ……」
「そりゃ、病人相手だしなぁ。しかもその原因、俺がスケ過密にしたせいだろう?」
折が良いのか悪いのか、ちょうど俺も仕事納めであったため、
都内で一人暮らしの志希の家へ、様子を見に行ってみた。
「俺も一人暮らしだから。体調崩した時の辛さは、分かるつもりだ」
「……なんかね。心細いんだよね。年の瀬で、ご近所サンもみんな静かになっちゃって。
この世界に、あたし一人しかいないんじゃないか、って気分になるんだ。
……だから、キミが来てくれて、ホントに良かった」
すると、志希は食事も取らずにうんうん唸っていたため、
俺はスーパーへ行って――東京は年末までお店が開いていて助かった――
とりあえずおかゆを作ってやったところだった。
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