過去ログ - 結衣「うたかた花火」 【俺ガイル】
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74: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2016/04/13(水) 01:24:36.37 ID:ZBNG2Zf6o
もうほどんど見えなくなってしまった二人が座るベンチに背を向け、元来た道を再び歩み出す。

今となってはもうここには誰もいないけれど、来られてよかった。

次に来た時にはあたしにあの二人の姿を見ることはできないだろう。

それでいいんだ。だって今こそがずっとあたしの欲しかった瞬間だから。

でも、ともう一回だけ振り返ってみる。

すると遠い昔のあたしは今のあたしにやわらかな笑みを浮かべて小さく手を振っていた。

そして微かに口を動かす。

その声はあまりにも小さくて聞こえなかったが、なんて言おうとしたのかはなんとなくわかった。

「ありがとね」

そうつぶやくように返してまた歩き出す。今度はもう、振り返らない。

あたしの足音をかき消すように辺りに撒き散らす花火の音が胸に響いたが、さっきよりもその感触は心地よい。

空を見上げずにただ耳だけで夏の花火を感じながら、一歩一歩しっかりと足を前に進める。

ほおにかかる少しだけ冷たくなった風と微かに鼻をくすぐる火薬の匂いが、祭りの終りと、次の季節が来ることをほのかに告げていた。










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