2:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします[sage saga]
2016/01/17(日) 01:59:44.19 ID:wgBKFXiq0
1、
最初は本当に奇跡だった。
その頃の俺は所謂新人プロデューサーで、先輩の手伝いをしてるだけの扱いやすい後輩ポジションだった。
一通りの仕事を覚えて、アイドルとの関わり方を学んだ頃……
「お前も自分でプロデュースしたくなる子を探せ。見つかるまで仕事は無いと思え」
と、青天の霹靂のような一言で会社から放り出されてしまった。
その後、オーディションの現場などを多少見てきたが、
自分がプロデュースしたいという子には出会えていなかった。
そして、それは休日に気分転換で訪れたショッピングモールでのことだった。
『ティンときた』とは、よく言ったもんで、俺はその日、一目惚れをした。
可愛らしい白のワンピースと大きい帽子に……
それは見るからに可憐で、こんな服を着こなせる子が居たらと思わずには居られなかった。
俺は単純に見惚れてしまっていた。
そんなとき、隣から同じような感嘆の声が聞こえてきた。
可愛く鳴る鈴のような声だった。
俺はその声の主を見たくて横を向いた。
そこには誰も居なく……いや、少し目線を下げると居た。
菫色のような淡く綺麗な髪を真っ直ぐなショートカットに綺麗に整え、シンプルで中性的な洋服に身を包んだ子が。
俺は、その子の視線の先に映るものが今まで俺が見ていたものと同じだと気付き……声を掛けた。
「この服が気になるのかい?」
出来る限り優しく、怖がらせないように、でも、きちんと意見を聞き出せるように……
「え!?…は、はぁ……」
その子は急に声を掛けられて戸惑っていた。
そりゃそうだよな……俺は自分の軽率さを心の中で叱責して、
休みでも持っていろと言われた通りに仕込んでいた名刺をポケットから取り出す。
「ごめんね。驚かせたかった訳じゃないんだ。僕はこういう仕事をしていてね…」
屈んで目線を下げ、差し出すように名刺を渡す。
お姫様に謁見するナイトになった気分でヤレと言われ、自然に出来るようになるまで何度も仕込まれた動作だ。
「ど、どうも……プ、プロ…デューサー……?」
更に戸惑わせているのかもしれない…そんな疑惑でここから逃げたくなるが、
ここで引いちゃダメだと俺の中で何かが訴えていた。
「今日はオフなんだけどね……いつでも仕事できるようにいろいろ仕込んでるんだ」
何て、笑いながら手品師のようにメモやペン、名刺などをちょこちょこと取り出しては仕舞って見せる。
「ふふふ…」
疑惑の顔だった子が少し笑顔になる。とても可愛い笑顔だった。
さらにもう一声かけようと思った時だった……
その子のスマホが鳴り、その子が画面を見た表情からタイムリミットのようだと悟る。
「もし、君がアイドルや可愛いものに興味があったら連絡して欲しい。僕の全力で素晴らしい世界を見せるから!」
俺は、そう優しくでも、怖がられない程度に強く宣言するように告げて、頭を下げた。
きっと、今は答えなんてもらえない。
それは分かりきっていたので、軽く別れの挨拶をして、俺は自分の買い物に戻った。
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