過去ログ - 魔王「お前、実は弱いだろ?」勇者「……」
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32: ◆OSUSHI.8HQhP[saga]
2016/01/19(火) 19:03:10.47 ID:NP6V+nJ/O

# 村外れの湖

僧侶「村の人の話だと、この辺らしいんだけど……」

勇者「太陽が完全に沈むまで待ってみようか」

僧侶「あれ? 今頃乗り気になってきたのかしら」

勇者「別に良いだろ? 五十年に一度だの、僧侶の母さんが好きだっただの聞いてたら、そりゃ気になってくるよ」

僧侶「ふふ。いつもそうやって素直だったら良いんだけどね。

    知ってる? 龍の涙には、悲しい言い伝えがあるんだよ」

勇者「ふむふむ、聞いてやろう」


    昔々、龍と人間が戦争をしていたと言うずっと昔のこと。

    若い龍が人間との戦いに傷ついて、湖の畔に倒れていました。

    そこへ、水を汲みに人間の娘がやってきました。

    娘は大層驚きましたが、話に聞いていた龍とは違い、その龍からはなんと優しさが溢れていたのです。

    そこで、娘は龍の鱗から汚れを落とし、湖の水を飲ませてあげました。

    それから、娘は毎日龍の看病を続けました。

    言葉こそ通じないものの、龍と娘は次第に惹かれ合っていきました。

    けれども、ある日、村の人に龍のことがばれてしまいました。

    村の中には龍との戦で家族を亡くした人もおり、村人は総出で龍を襲い、

    また、傷ついた龍をかくまっていた娘は、その場で殺されてしまいました。

    それを見た龍は、怒り狂って村人たちをなぎ払い、娘の亡骸を抱きしめました。

    龍は魔法の言葉を呟いてから、娘に口付けをしました。

    すると、なんと言うことでしょう。暖かな光が娘を包み込んだかと思うと、息を吹き返したのです。

    そして龍は、最期の力を振り絞って、娘を光ごと、平和の国へと送ってしまいました。

    一方、全ての力を使い果たした龍は、その場で古木に成り代わってしまいました。

    しかし、五十年に一度だけ、それもほんの一夜だけ、龍の姿に戻り、湖の畔で一人涙を流し続けているのだそうです。

    優しさ溢れる、淡い桃色の涙を。


僧侶「――めでたしめでたし」

勇者「ええ? めでたくないよ」

僧侶「勇者はどう思う? この女の人は幸せになれたのかなあ?」

勇者「龍はわがままだよ。娘だけ幸せになれば良いなんてさあ。

    この娘はたとえ楽園に行ってたとしても幸せになんかならなかったと思う」

僧侶「うん、そうだよね……」

勇者「な、なんで泣いてるんだよ」

僧侶「ううん。なんでもないよ…………。

   あ! あそこ見て! あの葦がいっぱい茂ってるとこ」

勇者「え? いや。ああ、光ってる……」

僧侶「わあ、綺麗……。

    本当に、優しい色。でも、どこか寂しそう」

僧侶(お母さんも、こうやって見てたのかなあ)

 遠く、淡い光がぽつりぽつりと灯っていた。

 やがてそれらは湖面を覆い、周囲の木々を妖しく照らした。

 まるで湖が龍の流した涙で溢れているかのようだった。



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