244: ◆i8c3ZXfr3A[saga]
2016/01/24(日) 15:10:32.80 ID:DJRYJjCe0
――抑える。
ここで獣に、欲情に身を任せれば、誰も喜ぶことはない。悲劇しか生み出さない。
だから、抑える。
荒くなった息を整え、ひどく早くうつ脈が鎮まるまで、俺はそこでじっとしていた。
だが、視線は動かせなかった。
虜になったように、女の奴隷になったかのように、蝋で固められたかのように、俺は女から視線をそらすことは出来なかった。
どれだけ経っただろうか、女は立ち上がり、出ていく。
肌はほんのりと桃色に染まり、髪先から雫が滴り落ちて肌に張り付いていた。
そして、最後に、こちらを横目で、天井を見上げ……
やばい、視線があった。
背筋に冷たいものが流れ、汗が噴き出たが、凍りついたかのように動けない。心拍もひときわ大きく打った後、停止したかのように静かだ。
時間にすれば、ほんの一瞬だったろうが、俺にとって永遠のように感じる体感のなかで、形のよい唇が動く。
「――好色家め」
誰にいうわけでもなく、すぐに正面に向き、皮肉げに笑った。
女――歌姫は体を壁にかかったタオルでふくことなく雫を垂らしながら、シャワー室から出て行った。
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