8:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:11:49.23 ID:/p0Ll9udO
「ぼく、お母さんの本棚にあった、ミステリー小説っていうのを読んだんだぞう。
そうしたら……その……」
「どうしたの?」
「……女の人が殺されちゃったんだぞう」
僕はちびぞう君の言ってることがよく分からなくて、首をかしげた。
「ころされちゃうって、どういうこと?」
「僕もよく分からないんだぞう……だからお母さんに聞いてみたら、誰かが誰かをこの世界から消してしまうことだって言ってたんだぞう」
「消してしまう……」
「この世界から消えてしまった人は、今まで好きだったものも嫌いだったものも、全部分からなくなるんだぞう。
自分が誰だかも分からなくなって、なにをしたいのかも分からなくなるんだぞう。
……だから、そんなことは絶対してはいけないっていわれたんだぞう」
「そうだね……。それはとっても怖いね」
「でも……僕はもっと怖いことに気がついたんだぞう」
ちびぞう君は僕の顔を見ないまま、絞り出すような声で言った。
「ばいきんまんは……アンパンマンのことを殺そうとしてるのかな」
「えっ?」
急に自分の名前が出てきたので、僕はすごく戸惑った。
そんな僕の方を、ちびぞう君はなにかを振りきるように怯えた目で見上げた。
「そんなの、僕は絶対嫌なんだぞう!
アンパンマンがこの世界から消えるなんて、絶対嫌だ!
僕やみんなのことも分からなくなるなんて、絶対絶対嫌だ!」
「落ち着いて、ちびぞう君。僕は消えたりはしないよ」
ちびぞう君は荒い呼吸を繰り返し、涙をぽろぽろとこぼした。
僕はとにかく焦って、さっきでかこ母さんがしたように、ちびぞう君を抱き締めた。
「大丈夫。僕はずっとこの世界にいるから。
そして、君たちを守るから」
ちびぞう君はこらえていた声を少しずつ大きくして、わーっと泣き出してしまった。
僕はそんな彼を抱き締めることしか出来なかった。
もっと安心する言葉をかけてあげたかったのに、僕はなにも思い浮かばなかったから。
けれど、ちびぞう君はしばらく泣くと、すっきりした顔で僕を見上げた。
「ありがとう、アンパンマン。
僕、ちょっと安心したぞう」
「それは良かった。それなら、かばお君たちに会えるかな?」
「うん、もう大丈夫だぞう」
「じゃあ、かばお君たちとお母さんが待ってるから、一緒にいこうね」
「うん!」
僕はちびぞう君と手をつないで、リビングの方へ歩いた。
そして、ちびぞう君は二人の姿を見ると、笑顔で駆け寄った。
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