過去ログ - 南条光「砂糖無しで、ミルクはいっぱい」
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13:名無しNIPPER[saga]
2016/02/21(日) 15:55:17.94 ID:vaXUSRZy0
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 ヒーローとしては断じて許されない昼出社。それをしてしまったのだから、お菓子作りの魔力とは末恐ろしい。特撮にアイドルに人助け、これ以上夢中になれるものを増やすと流石にダメになってしまうかもしれない。

 Pのデスクには、色とりどりの小箱が山となって積み上げられていた。白と青の小箱はありすちゃんの物だろうか。どうやらPは、家に帰ってから腰を据えて食べる予定みたいだ。

「ほら、お疲れさま」

 カタカタカタカタとキーボードを景気よく叩くPの隣に、コト、とわざとらしく音を立ててコーヒーを置いた。

「おお、おはよう」

「おはよう。もうこんにちはの時間だけどな。飲むか?」

「サンキュ」

 彼は手を休めてコーヒーを含んだ。こく、こく、とのど仏を揺らして、アタシが淹れたそれをゆっくり飲み干していった。

「旨いな。甘さが無いのがいい」

「砂糖無し、ミルクいっぱい、だろ? 甘いものと合わせるとちょうどいいよな」」 

「俺の好みを覚えてくれてたのか」

 「当たり前だ」と返事せず、アタシも一口コーヒーを舐めた。手前味噌だが、焙煎臭が引き立っててなかなか旨い。オレンジなどの柑橘類に近いフレッシュな酸味が憎らしいし、そんな香りが喉にとろりと絡みつくのが愛しい。

「じゃあ次、ハッピーバレンタインだ。作りたてでさ、今食べて欲しいんだけど……いいか?」

「喜んで、だな。楽しみにしていいんだな?」

「ばっちこい」

 「給湯室でタルトを切り分けた。そして持ち込んだ小皿にのせ、おかわりのコーヒーと一緒に彼に差し出した。

 彼はバナナやマシュマロが崩れるのが嫌かのようにフォークを運んだ。しかし最後は覚悟を決めて切り分け、こんがり焼けたマシュマロの上下を泣き別れさせて一口食べた。

「おお……けっこう手が込んでるな。大変だったんじゃないか、これ」

 はむはむもきゅもきゅと頬張る姿はどこかハムスターのよう。これを自覚してるとしたら、確かに自分の嗜好に罪深さを感じてしまうだろうな、と、見る度に納得する。

 そう美味しく食べてもらってることは嬉しかったけど、ガッツポーズやサムズアップをする気分にはなれなかった。

「まぁな。けど、無理をするのもアタシには楽しかったぞ」

 何故手がこんだ物を作ったか。その理由は胸に抱え込んだ。気付かれる筈がないし、自分でも気付いてないし、気付いて欲しくない。けど、こんなものを焼き上げてしまうほど君のことを見てるんだとは伝えたかった。

「もう一個焼いといたから。これ、彼女さんと楽しんでくれ!」


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