62:名無しNIPPER[saga]
2016/04/04(月) 00:42:07.91 ID:MClWhn520
だらりとぶら下がっていたはずの私の両腕は、いつのまにやらあなた様の背中と首に縋り付いておりました。ろくに踵は着かず、爪先を靴ごと捩りながらようやく立っていました。
そのようにみっともない私を、あなた様は受容れてくださりました。
髪が梳かれているのが分かりました。
ひしと抱かれているのが分かりました。
私の総てが肯定されたような心地に陥りました。そのようなことでは決してないのに。
瞬間、意識に電撃じみたものが奔り、私は反射的に唇を離しました。
貴音「これも――れっすんなのですか?」
頓狂に聞こえたのかもしれません。図星を突かれたのかもしれません。慣れてきた闇の中であなた様は、随分と趣のある表情をされました。
前者であることを祈りつつ、されど、身に余る幸せを授かっていた私は、傷のあらさがしを始めてしまいました。
何時までも懊悩に囚われる私へ業を煮やし、芸の肥やしにしろといわんばかりの口付けをなさったのでは――と、私は暗がりに、居もしない鬼を疑いました。
そうだと言ったら?
耳元で、囁かれました。
体中の熱が消えてうせるような寂しさ――
私は胸板を押し返そうとし――それとは比べ物にならない力強さで抱き返され、私達の距離は零に戻されました。
ばか。
そう聞こえました。
馬鹿と言われたのは始めての事のように思います。
罵りの言葉と記憶していたそれが、私の不安を一瞬で掻き消すとは。
貴音「ばかは、ばかはあなた様です……っ」
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