1: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:34:16.03 ID:ieSCX+M70
異様な物音で、ボクは意識を取り戻しました。
背中に当たる冷たい感触が、もやのかかった視界を徐々にはっきりとさせていきます。
狭くて、真っ暗で、ちょっと鉄臭いロッカーの中。
換気のために空けられているのか、小さな隙間はボクの頭よりも高い位置にあって、中から外をうかがう事はできません。
ボクはまだ少し混乱している頭で、今までに起きた出来事を思い出そうとしていました。
ボクの名前、輿水幸子。歳は14歳。職業はアイドルをやっていて。
そうです、カワイイボクは、その魅力を世間の人たちに教えてあげるために、アイドルになったんです。
それで、そんなボクは今、息を殺してこのロッカーに隠れて……
あれ? どうしてボクは、ここに隠れていたんでしたっけ?
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2: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:35:02.81 ID:ieSCX+M70
※ オリジナル設定 キャラ崩壊を含みます
※ ホラーっぽい描写がありますので、苦手な方はご注意を
3: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:36:40.37 ID:ieSCX+M70
「幸子……どこにいるんだー?」
ボクを探す、彼女の声を聞いて、ようやく思い出しました。ボクは、美玲さん……同じアイドル仲間の、
早坂美玲さんに見つからないよう、この更衣室にある、使われていないロッカーの中に逃げ込んだのです。
4: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:38:35.98 ID:ieSCX+M70
それはまるで、何かの動物に引っかかれたかのようで。
押さえている右手に、流れ出る血液がその温かさと、凝固しはじめて生まれる、
ねちゃねちゃとしたなんともいえず気味の悪い感触を伝えてきます。
5: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:39:39.89 ID:ieSCX+M70
「匂いが、わかるんだからな」
その足音が、迷うことなくボクの隠れたロッカーの前へとやって来て止まると、
今度はその扉が軋むような音をたてて開かれます。
6: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:42:21.15 ID:ieSCX+M70
ボクはまるで、誰かに弾かれたかのように彼女に体をぶつけると、勢いよくロッカーから飛び出しました。
でも、その瞬間に背中に走る鋭い痛みと、広がる熱。
そのまま押し倒されるように、床へとうつぶせに倒れこむボク。
7: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:43:37.05 ID:ieSCX+M70
その切っ先が、ゆっくり、じわじわと、その肌の弾力、そして感触を確かめるように、上から下へと移動していきます。
やがて、切っ先が倒れたボクの喉元まで降りてきたとき……
ボクの耳、頭、そしてうなじの辺りにかけられる、美玲さんの熱っぽい吐息。
8: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:45:40.36 ID:ieSCX+M70
「――じゃあ、引っかくぞ?」
艶のある、優しい彼女の囁きと共に、首筋に走る激痛と、全身を駆け巡る寒気。
目の前の床が真っ赤に染まっていき、指の先がどんどんと痺れていって……再び、ボクの意識が朦朧としていきます。
9: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:50:23.46 ID:ieSCX+M70
その日のボクは、事務所にある休憩室のテーブルにノートを並べ、学校で出された宿題と睨めっこをしていました。
アイドルとして活動している以上、普段の生活において、自由に使える時間というのは限られたもの。
10: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:52:29.14 ID:ieSCX+M70
そんなボクの隣、同じくソファーに座って熱心に図鑑を覗き込んでいるのは、
お魚大好きアイドルとして活動中の、浅利七海さん。
よほど集中しているのか、いつも肌身離さず持ち歩いている魚のぬいぐるみも、今は彼女の隣に置かれています。
11: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:53:32.75 ID:ieSCX+M70
「この図鑑には七海も知らない、見たことのないお魚さんが沢山載ってて……見てるだけでとっても楽しいんれす〜」
なるほど。どうやら七海さんは、架空の海の生き物を見て、それが実際にいるとしたら……
そんな想像をして、楽しんでいたといったところでしょうか。
12: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:54:55.77 ID:ieSCX+M70
その時、Pさんが――Pとは、ボク達のプロデューサーさんの名前です――七海さんを呼びに、休憩室へとやって来て。
二人が出て行ってしまうと、部屋には宿題をするボク一人。
「さてと。ボクも、ささっと宿題を終わらせませんとね」
13: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:56:03.27 ID:ieSCX+M70
「――なんでしょう?」
やがてボクは、奇妙な感覚に襲われました。なんだか、誰かに見つめられているような……そんな気がしてきたのです。
14: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:56:50.40 ID:ieSCX+M70
「気のせい……かな」
しかし、その奇妙な感覚は薄まる事なく、むしろ、先ほどよりもよりハッキリと感じられるようになった気がして。
15: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:58:17.52 ID:ieSCX+M70
一心不乱に手に持ったシャープペンシルを動かしながら、
早く誰かがやって来てくれないか――そんな事ばかりを考えていました。
「あっ」
16: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:59:00.57 ID:ieSCX+M70
きっと、静かな部屋に一人きりだったので、このぬいぐるみに見られているような……
そんな勘違いを、知らず知らずのうちにしてしまったのでしょう。
けれど、いくら作り物だと分かっていても、何も言わずじっとこちらを向いていられるのは、
17: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 17:59:55.55 ID:ieSCX+M70
「あ〜、やっぱり忘れてました〜」
いつの間に戻ってきたのか、七海さんがボクの目の前で、ぬいぐるみをひょいと抱きかかえます。
18: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 18:00:41.66 ID:ieSCX+M70
――助けてくれ。
「えっ?」
19: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 18:01:31.46 ID:ieSCX+M70
「海は、ひろいれすから」
顔を見せずに、そう言う七海さんの服が、ぐっしょりと濡れています。
スカートの裾から、ぽたりぽたりと雫が零れ落ちて……。
20: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 18:02:34.14 ID:ieSCX+M70
『あちゃ、またやられちゃった!』
――真っ暗な世界の中、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきます。
瞼を開くと、いつもの事務所の休憩室。ソファーに座っているボクの体は、なぜだか自分の意思では動かせなくって。
21: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/02/29(月) 18:03:47.57 ID:ieSCX+M70
再び、左腕に走る痛み。あぁそうだ、さっきの「ボク」は、彼女に首を裂かれて……。
何度目かの、鬼ごっこが始まりました。
――鬼ごっこの舞台となっている事務所は、そう大きな建物ではありません。四階建ての、どこにでもあるようなビル。
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