過去ログ - 俺ガイルSS 『思いのほか壁ドンは難しい』
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120:1 [sage]
2016/03/29(火) 23:03:04.81 ID:rDuILXWI0

「あっれぇー!比企谷じゃーん?」


赤と緑の補色鮮やかな飾り付けが溢れ返り、そこそかしこから定番クリスマスソングが聞こえてくる聖なる夜の街角。

背後の雑踏の中からかけられた声に驚いて俺の足が止まる。

俺が驚いた理由とは総じてみっつ。

ひとつ目は自他共に認めるぼっちであるところの俺は他人から名前を呼ばれることが滅多にない。

大抵は、“おい”とか“あの”とか、せいぜいいいところで“ねぇ”である。

ふたつ目は仮に呼ばれたとしても、まず“ヒキガヤ”ではなく“ヒキタニくん”だ。名前間違えられてる上に微妙な“くん”付けが疎外感をマジパなく加速(ブースト)している。

それでもごく希に、ごくごく親しい間柄であるクラスメートの戸塚や、全然親しくねぇしできたら金輪際したいとも思わねぇ材木座からは“八幡”とファーストネームで呼ばれることもあるのだが、それはまず例外中の例外といっていいだろう。

そして俺が驚いたみっつ目にして最大の理由、それはかけられた声が明らかに女の子のものであり、かつ、聞き覚えがあったからだ ――― それも、ごく最近。

聞き覚えのある女の子の声で、しかも俺のことを親しげに“比企谷”と呼ぶ?
その一見ありがちで実は決してありえない複数の条件を満たす相手といえば消去法を用いるまでもなく俺の知る限りただのひとりしか存在しない。

まぁ、厳密に言えば俺が半ば強制的に入部させられた奉仕部の顧問である平塚先生も俺のことを“比企谷”と呼びはする。
だが、とうにとうのたったアラサー女教師をして“女の子”と呼ぶにはさすがに抵抗…というか、それ以前に世間一般の通念に照らし合わせても少しばかり、いや、かなり無理があるというものだろう。

それはさておき…


「――― ちょっと比企谷、なにシカトしてんの?超ウケるんだけど」 


ヒキガヤ?誰ですかそれ、知らない子ですね。俺、ヒキタニくんだし。
今更のように他人の空似をキメこんでバックれようとする俺の背に、再び声の追い打ちがかかる。どうやらこのまま見過ごしてくれるつもりはないらしい。

…ちっ。小さく舌打ちをひとつ、俺は渋々ながら再び足を止めると、ゆっくりと肩越しに背後を振り返った。

眼の覚めるような黄色のPコートから伸びる黒タイツにファーのついた踝丈のティンバーランドブーツ、くしゅりとパーマのかかったショートボブ、小ぶりな顔に猫を思わせるやや釣り気味の大きな目。

俺の予想…というか、むしろ嫌な予感のとおり、そこには中学時代の同級生にして俺史上最凶最悪のトラウマ・メイカー、折本かおりがまるで屈託のない笑顔で立っていた。



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