343: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/06/14(火) 22:51:17.75 ID:bORNzi8VO
永井は手摺にのって、真下にいる“かのじょ”を見下ろした。“かのじょ”は腕を振り上げたが、胡桃のときとちがい、永井にはとどかなかった。死なない者がすでに死んだ者を見下ろす構図は、どこか皮肉を感じさせるものがあった。
永井は“声”をつかった。激しい空気の振動が、“かのじょ”の鼓膜から中耳を突き抜け、わずかに機能している脳に到達した。“かのじょ”が停止したのと同時に、永井は手摺から跳んだ。“かのじょ”の背後に着地した永井は、左腕をつかって、“かのじょ”の頭部を手摺の壁に押さえつけた。つづいて永井は右手にドライバーを握り、“かのじょ”の剥き出しになった脊椎を突いた。流れるような作業で、ためらいを見てとることはできなかった。
“声”の効果がきれた。ドライバーの切っ先は首の奥深くまで浸透していたが、“かのじょ”の口腔から歯軋りに似た不快な音がもれた。永井はすかさず左手でもドライバーのグリップを握りこみ、上から押さえつけるようにして“かのじょ”の頸部に全体重をかけた。ごきん、という音がして、“かのじょ”は倒れた。頭の位置は、首の骨が、かかった圧力に耐えられなかったことを示していた。
永井は床に伏した“かのじょ”を数秒のあいだ見下ろした。“かのじょ”が復活しないことを確認すると、その場をはなれ先に進んだ。
永井 (あの状態を死んでないと見なすのは、さすがにムリがあるか……)
そのように自嘲しながら、永井は地下二階へ降りていった。
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