477: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:53:09.35 ID:xQt0KHc3O
永井の手があがっていく。隊員は慌てることなく自動拳銃の弾倉を交換したあと、スライドを引き、狙いを定め引き鉄をひいた。銃弾はナイフとともに永井の指を吹き飛ばした。永井の左手がおちる。痛苦を感じる余裕もなく、永井は弱々しい呼吸を続けながら黙って銃口を睨んでいる。
隊員が拳銃を腰の後ろの長方形のポーチにしまい、麻酔銃をホルスターから抜いたとき、永井の身体に空いた穴から血と別の物質が流出し始めた。その物質は透過率百パーセントの完全に不可視の物質で、洪水のような勢いで永井の身体から放出された黒い粒子が、すでに駐車場全体を覆い尽くしていることに麻酔銃を構える隊員は気づいていなかった。
駐車場に広がる波面が、風や重力の影響に逆らい独自の運動を見せ始める。黒い粒子はわずかに上昇したかと思うと幾つかの塊となり、まるで個体発生のように人型の形成を始める。この現象の水源である永井の瞳にはおそろしく冷たい殺意が宿っていて、このまま永井が死ねば、その復活をきっかけに、この個体たちは敵味方の区別なくこの学校にいる者を皆殺しにするだろう。
細く長いナイフのような視線を永井は隊員に浴びせていた。その目が次の瞬間に捉えた光景は、殺意に滲んだ残酷な予想図とはいささかズレた、すこし滑稽なものだった。胡桃のシャベルが隊員の顔面を強打した。マスクが宙を飛び、隊員の身体が一回転しながら地面に倒れる。胡桃は、カラカラと音を立てながら転がる麻酔銃を追って隊員を飛び越えて走り出した。
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