過去ログ - ゆき「亜人?」
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570: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/09/23(金) 23:09:04.75 ID:m50+y+cIO

琴吹は黙ってそれを受け取ると、口にタバコを咥え存分に味わった。今度は海斗がコーヒーを飲む番だった。しばらくすると、琴吹がさっきの海斗と同じ行動を取った。海斗もまた、琴吹がそうしたように無言でタバコを受け取った。

タバコを根本まで吸い切るまで、二人のあいだでタバコの移動が続いた。外から見ると、タバコの赤い火がまるで蛍の光ように見えた。タバコが一方の口に咥えられているとき、もう一方の口はコーヒーに浸されていた。コーヒーの色は、今夜の新月の風景のように真っ黒だった。やがて、タバコの小さな赤い灯も、すっかり冷めてしまったわずかなコーヒーの残りもなくなってしまった。


琴吹「寝るわ」

海斗「おう」


二人は寝床につき、海斗は灯りを消した。目を閉じた琴吹は、自分の心臓の音がやけに大きく聴こえる気がした。琴吹は色聴者ではなかったが、その鼓動の音を聴くと、まぶたの裏に赤い色が見えてきて、黒い背景のまえでその色がゆらゆら踊っている光景が浮かんだ。琴吹はその光景を、目を閉じたままじっと見ていた。その灯りはとても小さくて、タバコの先端についた赤い火みたいだった。揺れる火を見つめるうちに、琴吹の閉じたまぶたの内側が暖かくなってきた。琴吹はその熱を感じながら、こんなに小さくても火は火なんだな、と思った。

隣では海斗が眠っていた。すこししてから、琴吹も眠りについた。小さな赤い灯はそれで消えた。十五階は真っ暗闇になった。だが、そんな真っ黒闇のなかでも、二人の人間が確かにそこで鼓動を刻み、生きていた。


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