過去ログ - 「奇奇怪怪、全てを呑み込むこの街で」
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名無しNIPPER
[saga]
2016/03/24(木) 17:00:51.59 ID:IK0XCEbx0
「おぉ、さすがに賑わってやがる」
「迷子にならんようにのぉ……ひっひっひ」
市場――と言っても、頭に闇が付く――では、所狭しと店が並べられています。山積みにされた果物、山羊の頭骨、謎の肉塊……
その中で独特な匂いを出しているのは、大きな寸胴でぐつぐつと煮られた赤い汁でした。
「あれが「悪魔の魚」か?」
「ああ、そうともぉ」
「ああ、お客さん、初めてかい? こんな奴だけど」
店主が木の樽から引っ張り出したのは、ぬめぬめとした赤い生物でした。足は八本も生えており、おまけに生臭い臭いを放っています。目はぎょろぎょろと忙しなく動き、足がうねうねと店主の腕に絡みつきます。
男は顔をしかめます。どうやら「鼻」が利くようですね。
「生臭っ……これが「悪魔の魚」……確かにこりゃ異形の生物だな」
「最近、新しく開拓された「黒海」で発見されてね。食うかい? 一杯につき金貨2枚だよ。宝石なら1つだね。ものによるけど」
「……どれ、食ってみるか」
「まいどっ!」
ほくほくとした笑みを浮かべた店主は、寸胴からぶつ切りにされた「悪魔の魚」を木のボウルに移します。
「……」
茹でると生臭さが消えるようです。もうもうと湯気を立てる赤い汁からは、妙な魅力が感じられました。男は汁を口に運びます。
「……おお、悪くねえ」
「ひひ、ワシも一口……」
「駄目だ」
「……ケチじゃのぉ」
今まで感じた事の無い旨みが口に広がります。ためしに足にかぶりついてみると、男好みの歯ごたえと共に、旨みが一層強くなりました。
「おお、良い顎持ってるねお客さん。大抵は冷めるまで待ったり、ちょっとずつ齧ったりするんだけど」
「この程度なら平気だ」
「ワシにもおくれぇ」
「やめとけジジイ。噛みきれねぇだろが」
「あー……確かにそっちのお客さんはちょっと」
「……まあいいさ、ひっひっひ」
歯ごたえのあるものを食べ、男は満足したようです。相変わらずの態度を取る老人と共に、人ごみの中を押し進んで行きました。
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