過去ログ - 「奇奇怪怪、全てを呑み込むこの街で」
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名無しNIPPER
[saga]
2016/03/24(木) 17:41:20.20 ID:IK0XCEbx0
「……ん、何だこりゃ」
「ほほぉ……楽しそうな事がありそうじゃのぉ」
異臭をいち早く嗅ぎ取った男は、早歩きで暗い路地を歩きます。進んで行くと、大量の死体が転がっておりました。
どれも急所を一突きでやられているようです。相当な手練れのようですね。
「……ヒヒヒヒヒッ!」
「テンション上がってんじゃねえよ、気味悪いな」
全ての死体から、金品や武器などが抜き取られています。男はぺろりと舌なめずりをしました。
(いる、近くに)
刹那、近くの闇から、漆黒に染まった剣が飛び出してきます。男は俊敏な動きでそれを躱し、持ち主の腹に強烈な拳を叩き込みました。
「ごっ……!!」
持ち主は剣を落とし、膝をついて苦しげに呼吸をします。その首には、光を失った勾玉の御守りが付けられていました。
「ほう、珍しいのが迷い込んでやがるな」
「ひひ……人間の勇者様とは! どこの空間の歪みから入ってきたんじゃ?」
「……はぁ、はぁ」
勇者と呼ばれた彼は、ふらつく身体を剣で支え、鋭い眼差しを男に浴びせます。
「此処に魔族の巣があったとは……! 私が全て絶滅させてやる!」
「嘘つくなよ、バァカ」
「!」
「その割には、金目のもんを全て奪い……何よりもその剣、闇魔法が込められてたじゃねえか」
「勇者様が使う光魔法とは、正反対の魔法じゃのう……ひひっ」
図星をつかれた勇者は、ぐっと言葉を詰まらせます。光を失った勾玉は、彼の勇者としての資格を否定している事を証明していました。
「……うるさい! 魔族は私が全て滅ぼす! それが私の使命だ!」
そう言うが早いか、勇者は再び剣に魔力を込め、男に飛びかかりました。
男は瞬時にウィルオウィスプを召喚し、視界を埋め尽くすほどの火球を勇者に浴びせます。
四方八方から小さな爆発が発生し、勇者は再び地面に倒れました。
「あー……駄目だ駄目だ。闇に身を落としても、そんな良い子ちゃんぶってるようじゃ」
男は紅い瞳をぎらりと光らせ、自らを炎で包みました。
めぎ、めぎっ。骨格が軋む嫌な音が響き渡ります。
「おぉ、久しぶりに見るのぉ。テンションが上がっているのは、自分も同じじゃろぉ……ひっひっひ」
「……そ、その姿は……まさか、貴様……」
「覚えときな、勇者さんよ」
「此処は「イサクラ」――使命だの希望だの、そんな甘っちょろいもんが通用する世界じゃねえんだ」
変貌を遂げた男の、大きな口から豪炎が放たれます。勇者は、全身に絡みつく恐怖に支配され、動くことすら出来ませんでした。
豪炎が消えた後には、静寂のみが残りました。
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