過去ログ - 「奇奇怪怪、全てを呑み込むこの街で」
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31:名無しNIPPER[saga]
2016/03/27(日) 22:22:30.06 ID:wOGGCkep0
「っあー……! また負けた!」

「ひっひっひ……よわーい、弱いのぉ〜」

男はサイコロの目を見て、苛立ちながら頭を掻き毟ります。老人は嬉しそうに手を叩き、琥珀色の液体をごくごくを飲み干します。

「……あぁクソ、良い酒なのによ……せめてちびちびいけよ……」

「ゲェーップ……ひっひっひ……」

相変わらず、彼らが潜む路地裏には、人気がありません。と言うのも、「あの辺にはヤバい奴らがいる」と言う噂が、最近こっそりと流れているからであります。

この欲望の街「イサクラ」を取り仕切る者は、意外にも存在しません。誰もが好き勝手に売り、買い、暴れ、殺し、治し。そんな澆季溷濁とした有様で、今日も街を満月が照らします。

「!」

と、突然男が顔を上げました。

こつ。こつ。人気の居ない路地裏に、何者かの足音が響きます。

男はその存在に、少し身構えます。老人は、その不気味な笑みを止めました。

と言うのも、この街には色んな種が存在していますが、こんなに無警戒に歩いているのに、気配が一切感じられない足音は初めてでした。まるで足音だけが近づいてくるようです。

「どうも、こんばんはです。お二人とも、強そうなのです」

姿を現した明るい声の主は、穏やかな笑顔でそう告げます。小柄な背に、中性的な顔立ちをしていて、男か女か分かりません。一応少年、と呼びましょうか。

「……お前、種族は何だ?」

「えへへ、秘密なのです!」

「……」

彼を「危険」と判断したのか、男はウィルオウィスプを挨拶代わりに放ちます。

しかし、それは少年のウィルオウィスプで相殺されました。火球同士が弾けて辺りを眩しく照らします。

「……てめぇも死霊術を使えるのか」

「僕自身は使えないのです」

男は眉間に皺を寄せ、険しい表情をします。人に擬態中とはいえ、自分の攻撃を軽くあしらう相手を見るのは久しぶりでした。

「あまり乱暴は良く無いと思うのです。痛いのは怖いのです」

「……お主、なかなかやるのぉ……」

「僕は新参者なのです。あまり荒事をして目立ちたくはないのです」

勝てない相手では無さそうだが、お互い無事では済まなそうだ――男はそんな判断をしました。

「別に喧嘩をしにきた訳では無いのです。お二人にこの街の事を聞きたいのです」

「と言っておるぞぉ〜? まぁワシは構わんが……」

「……ああ、良いぞ」

「やったのです!」

嬉しそうに飛び跳ねる少年を見て、男はまた面倒な相手が出来たな、とため息をつくのでした。


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