過去ログ - 「奇奇怪怪、全てを呑み込むこの街で」
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38:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 21:32:34.75 ID:sXdiIkwT0
「……ああ、血が疼くなァ……」

「ヒッヒッヒ……」

「怖いのです。襲われそうです」

フクロウが鳴き、不穏な空気が流れる今宵。深紅の光が降り注ぐ「イサクラ」は、普段よりも段違いに危険度が増します。

何故なら、今宵は珍しい「血の満月」だからです。その妖しい月光が含む魔力は、耐性が低い者の理性を、簡単に無くしてしまいます。

この月が出た翌日は、普段の数倍の死体が街に転がる事になります。生き残っていられるのは、一部の強者だけ――定期的に行われる選別のようなものですね。

「あァ、じっとしてられねえ。散歩にでも行くわ」

「ヒッヒッヒ……行くか」

「決して自分から喧嘩を売らないでほしいのです」

男や老人も、普段よりもギラついた目をしています。少年だけが、いつもと同じように飄々とした態度を取っています……何者なのでしょうか?

何処からか、生臭い風が吹き、男の肌を撫でます。そのまま路地を歩いて行くと、案の定殺し合いが起きておりました。

「ヒッヒッヒ……楽しそうじゃのぉ〜」

「……あんたは暴れんなよ? 自分でも分かってんだろ?」

「このお爺ちゃんは、何の種族なのです?」

「驚くなよ? このクソジジイはな――」

男が口を開いたその瞬間、空から何者かが飛び出してきました。

「今宵は素敵な月ですねぇ……クフフッ」

「……血狂いか、失せな雑魚」

現れた金髪の女性は、ヴァンパイアのようですね。理性は保っているようですが、男と同様、満月に血が惹かれている様子。すでに何人も殺しているようです。

艶めかしい動きで口元の血を拭うと、腰に下げた剣を少年に向けて突きつけました。

「……止めるのです」

「あなたの血、とても美味しそう……ウフフッ」

ヴァンパイアの女性は、そう言うと同時に、鋭い突きを放ちます。少年は不気味な笑みと共に、突如手にした剣でそれを難なく弾きました。

「あれ、いつの間に剣を……?」

「ふふ……分からないのです?」

「ッ!」

女性は背中にぞくりとした悪寒を感じました。まるで、得体の知れない暗闇に呑まれたかのような――

「クフフ……怖い?」

「!」

その瞬間、ヴァンパイアの「女性」が「本体」の首元に飛びかかりました。「本体」は驚き、跳ね除けようとしますが、すでに時は遅く。

「女性」が「本体」の首元に噛みつき、そのまま血を吸い取ります。

恐ろしい速さで全ての血を飲みほした「女性」は、元の姿に戻りました。

「激レアじゃねえか、見た事ねえぞ……ドッペルゲンガーだったとはな。次は俺とやろうぜ……!」

「ヒッヒッヒ……驚いたのぉ」

少年はドッペルゲンガーだったようですね。相手の姿や能力をコピーする能力でしょうか?

「強い相手はコピーだけじゃ勝てないのです。だから争いは嫌いなのです」

「なんだそりゃ」

今も何処かで血に飢える者共の咆哮が聞こえます。

血なまぐさい今日の「イサクラ」の夜は、まだまだ続きます。


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