過去ログ - 「奇奇怪怪、全てを呑み込むこの街で」
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42:名無しNIPPER[saga]
2016/03/31(木) 00:08:46.09 ID:iRQLIy9b0
「……!」

「……あ、起きた……大丈夫……ですか?」

目を覚ました男は、自分の身体が軽い事に驚きました。見ると、全ての傷がある程度癒えています。

「……てめえがやったのか?」

「……う、うん」

少女はびくりとしましたが、心配そうな顔を見せます。

「……勝手な事すんじゃねえよ」

男はむくりと起き上がると、服の汚れを落として少女に背を向けました。

……ですが、さすがに胸糞が悪いと感じたのでしょうか、懐から金貨を三枚ほど出しました。

「……だが、治してもらったもんはしょうがねえ。これはその分の金だ」

その金貨を乱暴に放り投げ、男は歩き出しました。

「……ありがとう、お兄さん……大事にするね」

「貰ったんならさっさと失せな、いつ俺がお前を殺すか分からねえんだぞ」

男は壁に唾を吐くと、狭い路地へと消えていきました。



「もう大丈夫か……涙を買いにいかねえと」

男は、体力がある程度回復したのを確認すると、自分の住処から再び表通りに戻りました。

「……ん? あいつは……」

視線の先には、先ほどの少女が道に座り込んでいます。

「……おい、さっさと失せろっつっただろが! 此処に居座ってんじゃねえよ!」

自分に目をつけているのか? 男は罵声を浴びせますが、どうも様子がおかしいようです。

少女はぜぇぜぇと肩で息をし、今にも崩れ落ちそうな状態です。

「おい、聞いてんのか……」

少女の髪を掴み、こちらに引いた男は、一瞬動きが止まりました。

(こいつ、なんで――)

「……何、笑ってんだ……?」

少女は、安らかな笑みを浮かべていました。

「……誰かの役に立ったの、初めて……だから……」

「……」

「……嬉しかったな……」

そう言い残し、少女は目を閉じました。

呼吸をしていません。どうやら、息を引き取ったようです。

(……もう動く体力すらも、残ってなかったのか)

そんな状況だったのに、こいつは俺を治したのか。

男は理解が出来ません。この街では、そんな事をする人間なんていませんから。

「……ふん、俺の知った事じゃねえ」

男はそう言うと、早歩きで進み始めます。

「……」

「……」

「……」


「……悪かったな」

男がぽつりと放ったその言葉は、夜の闇に呑み込まれて行きました。


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