過去ログ - 双葉杏「私だけの世界」
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6:名無しNIPPER
2016/03/29(火) 16:47:03.20 ID:8K7Ln/29o
「○○さーん。そろそろ診察の時間ですよ。あら、杏ちゃん。今日も来てたのね」

病室のドアを開けて、看護師さんが中に入って来た。私は、軽く会釈をして立ち上がった。
お姉ちゃんは、心臓の病気で長いことこの病院に入院しているらしい。



7:名無しNIPPER
2016/03/29(火) 16:47:30.69 ID:8K7Ln/29o
「それじゃ、診察の邪魔したらあれだから、杏は帰るよ」

寂しくないと言えば、嘘になるけれど、お姉ちゃんに迷惑をかけるよりはよっぽど増しだと思う。だから、私は帰ることにした。

「それじゃ、またね。杏」
以下略



8:名無しNIPPER
2016/03/29(火) 16:48:00.36 ID:8K7Ln/29o
「ただいまーって、どうせ誰もいないよね」

誰もいない家に、私の声がこだまする。リビングの電気をつけると、机の上には7万円と、「一か月ほど出かけるから」とだけ書かれた書置きが残されていた。いわゆる、ネグレクトというやつだ。私は親とまともに会話したことも出かけたことすらない。年に数回顔を合わせるだけの他人だ。



9:名無しNIPPER
2016/03/29(火) 16:48:31.00 ID:8K7Ln/29o
「はぁ……、コンビニにでも行ってくるかな」

溜息をついて、机の上に置かれたお金を持って外に出た。もしも、お姉ちゃんがいたら、ちゃんと栄養を考えて食べないといけないと言って怒るんだろうなぁと思うと、不思議と寂しさは感じなかった。



10:名無しNIPPER
2016/03/29(火) 16:48:57.47 ID:8K7Ln/29o
「学校か……」

朝起きて、私は憂鬱な気分になっていた。学校は嫌いだ。私を奇特な物を見るような目で見てくるような奴ばかりだからだ。だから、私の周りには誰もいなかった。だけど、休むわけにはいかない。私のたった一つの夢のために。



11:名無しNIPPER
2016/03/29(火) 16:50:06.83 ID:8K7Ln/29o
私の夢――。それは医者になって、お姉ちゃんの病気を治療することだ。そのためなら、どんなことだって耐えられた。ネグレクトも、無視も、いじめも、これも夢のために必要なことだって、頑張って耐えた。耐えて耐えて、耐え続けた。


12:名無しNIPPER
2016/03/29(火) 16:50:39.66 ID:8K7Ln/29o
お姉ちゃん! 杏、また百点取ったよ」

最近、お姉ちゃんは眠っていることが多くなった。たまにいるお姉ちゃんの家族も涙を流していることが多くなった。時間がない。それは何となく私にも分かった。だから、もっと勉強した。当然成績も上がった。いじめが酷くなった。でも、耐えた。



13:名無しNIPPER
2016/03/29(火) 16:51:33.06 ID:8K7Ln/29o
「久しぶりだね……。杏」

お姉ちゃんはずいぶん元気がなさそうだった。私の頭を撫でる手も、もうほとんど力が入っていなかった。涙が出そうになるのを必死にこらえた。



14:名無しNIPPER
2016/03/29(火) 16:52:09.47 ID:8K7Ln/29o
「杏ね。あれから一杯百点取ったんだ。だから、いつもの頂戴!」

「おっけー」

震える手で、お姉ちゃんは飴玉を私の口に運ぼうとするが、飴玉をうまく掴めないらしい。
以下略



15:名無しNIPPER
2016/03/29(火) 16:52:38.29 ID:8K7Ln/29o
「ごめんね……」

「ううん、いいよ」

あと、何回こうやって会話できるだろう。そんな、疑問が頭の中に浮かんだ。不安が心を支配する。やめろ。そんなこと考えるな。私が助けるんだ。だから、すっとこうやって時間を過ごせるんだ。そうやって、自分に言い聞かせる。
以下略



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