164:名無しNIPPER[saga]
2016/04/26(火) 23:31:22.38 ID:gheRICtno
そういうわけで連れてこられたのは、たしかに有名な観光地だった。
「景色が綺麗ってので有名ではあるけど……」と、駐車場に車を止めて、海岸通りに足を進めながら、遊馬兄は言う。
「……ぶっちゃけ、まあ、そんなでもないよな。朝とか夕方なら、また違うかもしれないけど」
遊馬兄はそう言ったけど、なぜだか俺は、不思議と見とれてしまった。
昼下がりの海面はきらきらと光を弾いて揺れ動いている。
ぼんやりと視線を投げると、水際にいくつもの漁船が並んでいる。突き出たような船乗り場の先には大型のフェリーが一艘。
その先には、例の多島海が景色として広がっていた。
水平線が、島々の隙間から見える。
季節と天気のせいか、夏休みに入ったからか、人は少なくないが、かといって多すぎるというほどでもない。
「子供向けの施設なんかが少ないからだろうな」、と遊馬兄は言った。
「寺とか、そういうのはあるから、よく言えば大人向けって感じだな。昔は水族館もあって、小学校の遠足なんかで連れてこられたもんだけど」
「……今はないの? 水族館」
「地震のときにやられて一回休館したんだよな。一時期はまた営業してたんだけど、結局潰れた。好きだったんだけどな、俺。
古いけど味があるっていうか……あと、アシカショーが超テンションあがる」
「……ふうん」
「で、そのアシカ、新しく別の場所にできた水族館に引き取られたらしいよ。いつオープンだったっけ?」
「今月頭じゃない?」
「だっけか」
ちい姉と遊馬兄の会話のやりとりがあんまりナチュラルなものだから、俺は違和感さえ覚えた。
あの頃はもっと、お互い距離をはかりあうような不自然さがあったものだけど。
まあ、付き合ってたっていうんだから、そういうものなんだろう。
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