過去ログ - 屋上に昇って.
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22:名無しNIPPER[saga]
2016/04/06(水) 00:33:49.39 ID:IXgA3K/jo

「俺が生まれなければさ」

 と、そんな仮定を、ときどき持ち出したくなる。

「俺が生まれなければ、父さんはひょっとしたら、母さんの方を捨てたんじゃないのかな」

 るーは何も言わない。

「俺が生まれなければ、よだかは当たり前に父さんの娘として生きて、そしたら、よだかの母親だって死ななくて。
 母さんだって、いくらか痛手は負うかもしれないけど、次の相手を探せたかもしれない」

 ――わたし、生まれなければよかったね。

 よだかがそう言ったとき、俺は本当は、反対のことを考えていた。

 俺が生まれなければ……誰も、不幸にはならなかったかもしれない。
 そう、思っていた。
 意味のない仮定だ。現実的じゃない。空想だ。

 でも、靴の底に張り付いたガムみたいに頭から剥がれない。

「知らなければよかったって、思いますか?」

 何も知らないはずのるーは、けれど、俺にそう問いかける。
 これは夢だから……不思議なことは何もない。

 俺は、首を横に振った。
 知ってしまった俺には、知らないままで生きていってしまうことのほうが、おそろしいことに思える。




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