過去ログ - 屋上に昇って.
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293:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:40:09.61 ID:GNfKg3P3o

 日差しに歪む視界のなか、夏の気配にまぎれて、俺達は猫の影をどこまでも追う。

「……だいきらいって、言ったことがあるんです」

 何かをうかがうように、るーは口を開いた。

「……なに?」

「物心ついた頃には、ちい姉と一緒に暮らしてなかったから。
 ときどき、顔を合わせると、お父さんはいつも、ちい姉の相手ばかりしていて……」

「……」

「わたし、お父さんを、知らない女の子にとられた気がして。
 その子がお姉ちゃんなんだって言われても、そういうふうに思えなくて、だから……」

 だいきらいって、お姉ちゃんじゃないって。
 そう言ったんです。

「……でも、ちい姉は悪くなくて、ちい姉だって、ずっと傷ついてて、だからわたし、ひどいことを言ったんだ、って」

 坂の上で、猫は待っていた。追いついてしまった。俺たちは、その場に立ち止まる。

 るーは悪くないよ、と、そう言ってしまうのは簡単だ。
 でも、そんな言葉は、きっと彼女には何の意味ももたない。
 
「そっか」

 返せたのは他人事のような頷きだけで、俺は自分が嫌になる。




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