過去ログ - 屋上に昇って.
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81:名無しNIPPER[saga]
2016/04/16(土) 00:57:12.07 ID:5Sr7dpy7o

 それが、遠いから、という理由で、顔を削いで、名前を奪ってしまうなら、死んだ人は、ただの数字になってしまうよね。

「現に死んでしまったから、という理由だけで、すべての死を平坦に扱って、弔い祈る対象にするなら、
 わたしたちがどんな生き方をしたところで、死んだあとはただの数字でしかなくなってしまうことになる」

 でも、そんなの、わたしは嫌だから。

「わたしは死んだあと、わたしのことをよくしらない人に、『かわいそう』とか勝手に言われたくない。
 わたしが将来をどう思っていたかとか、家族とどんなふうだったかとか、そんなの、勝手に想像されたくない。
 弔いも悼みも、『わたし』固有のものについてであってほしい。大勢のなかのひとりとか、大きな悲劇のひとつのファクターとしてじゃなくて」

 だから、されたくないことは、しない。部長はそう言った。

「わたしは、死んでしまった、よく知りもしない人に対して、他人事のような感傷を押し付けたくない。
 押し付けられたくないから、押し付けない。漠然としたイメージで、憐れまれたくない。大きな物語の部品みたいに、消費されたくない」

 顔を削がれ、名前を奪われ、数字として消費される死。

「だから、もしその人のために何かができるとしたら、それは、その人について知ったあとだと思う。
 その人がどんな人で、何を考えて、何が好きで、何を思って、生きていたのか、それを知ること……」

「それが、名前を呼ぶこと、ですか?」

「うん。死んでしまったら、どう扱われようと、同じことかもしれない。どうなっても分からないのかもしれない。
 でも、いま生きているわたしは、名前を奪われたくない。死んだあと、名前を呼んでほしい。
 だから、名前を呼ぶこと、だと思う」

 たぶん、それだけが、死んでしまった猫のために、わたしたちができること。
 それはたぶん、わたしたちのためだけれど。
 



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