過去ログ - ちひろ「プロデューサーさんとの幸せな日々」
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名無しNIPPER
[saga]
2016/04/06(水) 04:29:30.87 ID:yjfF0art0
男は前を向いたままそう言った。だから助手席の少女が耳まで顔を赤くしてうつむいたことも知らないし、彼女の心臓がどれほど強く脈打っていたのかも気付かなかった。凛でも照れたりするんだな、という男のぞんざいな認識は、凛がこの瞬間に感じた運命とあまりにもかけ離れていた。
いま思えば、どうして彼がこういう言動ができるのかも凛にはわかる。誤解や曲解を招くような、率直な好意と他者肯定。普通だったら恥ずかしくて言えないような言葉を、彼はさらっと使ってしまう。それは自分のような人間が言ったところで、相手は真剣に受け止めたりなどしないと思っているからだった。
彼にとって彼の存在はひどく軽いものだった。アイドルのために努力するのが義務と考えており、そのために彼自身が支払う時間も労力もすべて無償だと考えている。彼は自己愛から最もかけ離れた人間といえた。故に好意を寄せられると戸惑ってしまう。好きだと言われると困ってしまう。彼自身の認識では、アイドルに対して特別なことは何もしていない。プロデューサーとして当たり前の仕事をしているだけであって、感謝はともかくそれ以上の感情を寄せられる理由が本当にわからない。
アイドルのために昼夜なく働き、余暇をすべて使い、彼女たちを励まし、褒め称え、時には叱り、慰めてきた。手を引いて、背中を押して、ステージに送り出す。一途で、必死で、献身的な、無償の奉仕。彼にとってそれは、やりがいのある、少なくないサラリーが出るボランティアだった。しかし彼の一連の行為は、アイドルたちにとっては無償の愛に他ならなかった。
他人のためにどうしてここまでしてくれるのかという疑問は、自分のためにこんなにも頑張ってくれているという感謝に変わる。ありがとうという気持ちが愛しいという感情に変わるのにそれほど時はかからない。アイドルとプロデューサーという関係で告白などできるわけもなかったが、愛してくれる人に応えたいと思うのが人間だった。愛する人に応えてほしいと思うのが女だった。
彼女たちは彼女たちなりに、プロデューサーに報いろうとした。自分が受け取ってきたものをほんの少しでもいいから返したかった。だが彼から返ってくる反応はどれもおかしなものばかりだった。
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