12: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:11:59.36 ID:qn31rgISo
拾ってみれば、何のことはない。ただの紙片だ。そういえば、何度も読んだ作品ではあったが、上京してから読んだ覚えは無かった。中古屋で買ったはいいものの、後に回したのだろう。
だからきっと、この紙片は、前の持ち主が挟んでいた栞。ふ、と少し鼻で笑えば、くしゃりと紙片を丸めて、ゴミ箱へと投げる。それは、こつんとフチに当たったが、中に入ることはなくて。部屋の隅にころりと転がった。
『あー、惜しい。はずれか。まあ帰ってからでいいね』
そう呟くと、僕は部屋を出る。鍵を掛ければ、もう見事な冬の気配が漂っていた。寒さは苦手ではないといったが、都会の冬はどうにも、慣れない。七度目の冬でも、都心からは少し離れていても。
体ではなく、どこか心が凍らされるような、そんな冬。
よそ者はいつまでたっても、よそ者なのかもしれない。もっとも、この都会は大半がよそ者ばかりのはずなのだけれど。何かの皮肉だろうか?
(……まあ、でも。僕にはあまり関係はない。これでいいさ)
僕は少し凍った心の中で、そう呟いた。これで満足だった。記事を書いて、プログラムを組んで、Webページを作って、本を読む。四つもやりたいことをやっている。
だからこそ、一日が九十六時間あればいいのに。そんな、実も理も無い、空想話を思い浮かべながら僕は歩き始めた。
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