123: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/09(月) 04:53:21.85 ID:deOLyju9o
『……まさか。僕には不釣り合いですよ、何もかも。僕は今の人生に満足していますから』
僕は少し俯いて、嘘をつく。いや、前半部分は本心だ。あの社長の語る”夢”と、僕の才能が釣り合うはずもない。けれど後半部分は……自己暗示にも等しい嘘と業の塊。
ほんの二か月前の僕に、”今の人生に満足しているか?”と問いかけたならば、寸刻の間も置かずに満足していると返しただろうけれど。でも、今はそうじゃない。
124: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/09(月) 04:53:48.07 ID:deOLyju9o
「……君にとっての”夢”ってのは、どういう物なんだい?」
まるで心を見透かされたかのような言葉に、僕は思わず顔を上げる。編集長は笑っていた。けれどその目は、今にも僕に掴みかからんばかりの闘気のようなものが見えて。
「なあ、Pくん。”夢”を追うってね、すごく疲れるし、何度も心が折れそうになる。正直追わなきゃよかったって思うこともある。金だけ稼いで安穏な生活を送る人生を選ばなかった自分を殴りたくなったことだってある。――それでも、それでもだ」
125: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/09(月) 04:54:14.16 ID:deOLyju9o
「心底好きなんだよ。俺の全部を捧げても安いって思えるほどに。もし一度投げ捨てたとしても、次の日にはほっぽり出したのは間違いだったって取り戻しに行く。そういうもんなんだ、”夢”ってのは」
――その言葉は、僕にとってはあまりにも衝撃で。一瞬、全ての思考力を失って、ただじっと編集長を見ていることしかできなくて。
だってそれは。その考えは。
126: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/09(月) 04:55:21.80 ID:deOLyju9o
『……いいのでしょうか、僕は。そんなことが許されても。夢を追うなんて、僕みたいな人間が。あなたの期待を裏切り続けた僕が』
「馬鹿野郎、許す、許さないもないさ。俺が決めることじゃあない。君だけが決めていいことだ。……もしかして、俺の誘いを断り続けたことを申し訳ないって思ってるのか? そんなら、筋違いだぜ」
編集長は振り返りもせず、しかし諭すような声で。確固たる意志を示す様に。その表情は見えないけれど、きっとしたり顔で笑っているに違いないって確信できるほどに。
127: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/09(月) 04:55:48.32 ID:deOLyju9o
『文香さん』
「おはよう……ございます、Pさん」
『あ、お、おはようございます』
128: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/09(月) 04:56:19.16 ID:deOLyju9o
「読んでみたいです、Pさんの書いた物語を。……私がこんなことを言うのはおかしなことだと。そう、思うのですが」
『……え?』
「私も……本で救われた人間です。ですから、少しだけ……Pさんのことが分かります」
129: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/09(月) 04:56:45.46 ID:deOLyju9o
『……文香さんにそう言われては、どうにも。……僕のような人間が夢を追うなんて。限りなく遠くにある兎を追うなんて、おこがましいことだと思っていました』
社長の言葉だけでも、きっと選んだだろう。編集長の後押しだけでも、決断できただろう。
けれど、ここで心が決まることはなかった。悩みに悩んで、かなりの時間を使って。それでようやく、踏ん切りがつくはずだった。
130: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/09(月) 04:57:28.35 ID:deOLyju9o
「……そんなPさんだから、きっと――好きになったんです」
『――えっ』
一瞬耳を疑った。好き? 何がだろうか。文脈から推察できるものは数限りがあって。そして僕の頭はおろかにも、ある一つの解答を出そうとしている。
131: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/09(月) 04:59:36.98 ID:deOLyju9o
本日の更新は以上です。
次回更新は投降予定分の校正完了次第を予定しています。
ありがとうございました。
P.S.デレステ、少しイベントを走ってみましたがボーダーが鬼ですね。
132:名無しNIPPER[sage]
2016/05/09(月) 07:44:53.97 ID:tB5p3ZsDO
乙
今回だけは本当にキツかった
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