32: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/12(火) 22:47:16.71 ID:k7FwQOIQo
『……はい、これで問題ありません。すみません、いつもお手数をおかけして』
「なに、こういうのが編集者の醍醐味だからね。全く校正の必要がないなんて、それこそつまらん。俺の存在意義を奪わんでくれよ、はっはは」
タブレットを返しつつ僕が言えば、編集長は酷く上機嫌な様子でそう返す。それに、僕は苦笑というか、愛想笑いというか、なんとも微妙な笑みで返しながら、稿料と書類の入った封筒の中身も確認せず、リュックに突っ込んだ。
どうやら、この笑顔はあまり評判が良くないらしい。良く”諦めている笑み”と言われた。僕はそんなつもりはないのだけれど、酷く覇気の無い顔に見えるようだ。
ぶっちゃけ、そんなもの生まれつきなのだろうから、僕の知ったことではない。そう言えればいいのだけれど、まあ、波風立てるわけにもいかないのでまた、この笑顔でごまかすしかないというわけで。
そんなわけで、結局嫌われる笑顔で誤魔化すしかないのだからどうしようもない。仲の良い知人というのはほとんどいなかったりする。なんとも僕らしいことだろうか。
「ああ、そういやPくん。今、別件で仕事はやっていたっけか? ちょっと変わり種なんだが、一つ相談があってね」
そうして、渡すものも渡したし、受け取る物も受け取った。暇そうに見えてきっと、尋常ではないぐらい忙しい編集長をいつまでも僕が拘束するわけにはいかない。
そう思って帰り支度を整えていた僕を、呼び止めるように編集長が言った。僕はリュックのジッパーを閉める手を止めて、顔を上げる。
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