過去ログ - モバP「二兎追い人の栞」
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9: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:10:37.55 ID:qn31rgISo
 それに……僕には本があった。流石に、こっちは仕事には出来なかったけれども。それでも中卒の僕には心強い知識の源泉。僕の心の支えとも言っていい。お蔭で、中卒の分際で知識はある……と思う。

 その上、何度か見てくれについて言及されたこともあるが、どうやら僕は”知的”に見えるらしい。学歴からすればお笑い種なお話だ。もし本当にそう見えるなら、本とくたびれた眼鏡のおかげだろう。

 その本も、手持ちのものではもう読めるものがほとんどなくなってしまっている。ふと後ろを振り返ってみれば、うずたかく積み上げられた本の山。

 本棚に入れられることもなく、乱雑に積み上げられているように見えて、僕の中ではきちんと整理されている本たちは、決して広くはないアパートの一室の、それでも壁一面を埋め尽くさんと積まれていて。

 もう全部読み切ってしまったそれらの中から、僕はふと一冊の本を選んだ。もちろん、題名を見てのことではない。ただ何となく選んだだけ。それだけだ。

 手元に持ってきてから、電気スタンドでその本の表紙を照らしてみる。書かれていたタイトルは、王道ファンタジーの金字塔的作品で、もう半世紀以上も前の作品になる。

 だが僕にとっては思い出深い、大好きな作品だった。中学の入学祝いに、親父が買ってくれたハードカバー版は今も実家にあるはずだから、ここにあるのは上京してから買った文庫本。

 中学を卒業して、高校にも行かないで部屋に引きこもって。そして親戚の反対を押し切って、社会に出て、このアパートを借りて。そして、本の山が出来始めた初期のころに、中古屋で買った覚えがある。

 良くも悪くも……僕と共に歩んできた作品だと、そう言えるのかもしれない。



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