過去ログ - オッサン勇者と少女魔族が世界を旅する話
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4:名無しNIPPER[saga]
2016/04/18(月) 01:10:38.40 ID:ZyCwTMFeo
突然、聴きなれた言語が耳に飛び込み、男は反射的に歩を止めた。
同時に目の前の魔族たちから漏れ出る魔力波導の異質さに気付く。
ここまで斃してきた魔族とは明らかに違う。どの魔族にも共通していたぬるりと身体にまとわりつく薄気味悪い魔族特有の魔力波導をまるで感じない。
代わりにすべて飲み込まれてしまいそうな深い奈落を覗き込んだような感覚に陥った。
少しでも気を抜けば、この魔力波導にあてられただけで意識を手放すことになるだろう。
わずかに、剣を握り締めた拳が震える。

(恐怖……? は、まさか今更そんなものを感じるとはなァ……)

男は一介の王宮兵士に過ぎなかった。魔法は不得手であったものの、剣の腕には自信があった。
強大な魔族であっても単身で打ち斃す実力もあった。王都を襲った巨大な飛龍を単独で屠った実績もあった。
それでもこの城にたどり着くまでに幾度となく死線を彷徨った。
その都度強くなり、その都度恐怖を克服してきた。
魔族から勝利をあげるたびに無謀と罵声を浴びた行為は勇敢へと変わり、蛮行と謗りを受けた行為は英断へと変わっていった。
そうして愚者と嘲笑われた男はいつしか勇者と呼ばれるようになっていた。

(ヒトらしい感情は全部捨ててきたつもりだったが、まだ俺も人間だってことか)

震える右の拳を左の手で抑え込む。
これで、最後。全ての元凶たる魔王が目の前にいる。
勇者は、他人のために剣を振るわない。勇者は国のために剣を振るわない。勇者は平和のために剣を振るわない。
ただひたすら己がため。己の目的のために剣を振るい、独りでここに辿り着いた。
故に死地へ向かうことに躊躇はなく、自らの決意に迷いはないつもりだった。
しかし対峙しただけで湧き上がった恐怖は勇者の覚悟を一笑に付されたに等しかった。

(……くくっ。なにビビってやがる。死のうが生きようが、これで終いだってのに)

羞恥を瞬時に黙殺すると同時に勇者の中にどす黒い炎が猛り、僅かながらに芽生えた恐怖を焼き尽くしていく。


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