過去ログ - 『聖タチバナ』野球しようよ『パワプロss』
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11: ◆ugYRSBAsKU[saga]
2016/05/06(金) 04:32:32.22 ID:z9yXLn470

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 大仙先生が立ち去ってからすぐのこと。
 矢部は残りのかき氷をちまちまと食べていた。
 そして俺は既に残り少ないかき氷を食べ終えると、ぼんやりと傍の窓から外を眺めていた。
 大したものは何も見えない。
 アスファルトの道路を車が走るか、その傍の歩行路を人が通るか。
 あとは、繁々とした青葉が付いた木々くらいだ。
 一言で言ってしまえば、ちょっと暇である。
 だからというか、視線は外に向けたまま、暇つぶしに俺は口を開いた。

「なあ、この後はどうする?」

 そんな言葉を矢部は耳にすると、一度スプーンを持つ手を止めた。
 どうやら俺とは違って、喋りながら食べるなんてことはしないらしい。
 まったく、行儀のいいことで。

「……そうでやんすね」

 と言って、矢部は少しだけ考える仕草を取った。
 そして、出た答えは、

「んー、なんでもいいでやんす」

 何でもいい、何でもいい。
 そう、軽い口調で矢部は言った。
 が、それが一番困る解答だということを矢部は知っているのだろうか。

「…………ふむ」

 と、今度はこちらがシンキングタイム。
 そんな最中、視線は相変わらず外を向いていて、困ったなという思いが湧き始める。
 反面、鏡に薄らと映る自分を見てみれば、結構呑気な顔をしていた。
 余裕があるのだろう。
 まあ事実、実のところそんなに深く悩んでいないことだし。
 これからの予定なんて、頭が痛くなるほど悩むようなものでもないだろう。
 ……まあ、それはさておき。
 そうして。
 三分ほどのんびりと考えたところで、俺の脳裏には一つ案が浮かんだ。
 対して矢部は既にかき氷を食べ終えていて、今すぐにでも会計にいこうと思えばいける状態だった。
 そんな中、俺は言った。顎に手を付き、視線は微塵も動かさないまま。

「ボウリングでも行くか?」
「……ボウリングでやんす?」
「ああ。近くのボウリング場で、確か新入生応援キャンペーンなんてものがやってるから、今なら安くつくぞ」
「……そうでやんすか。じゃ、今から行くでやんす」

 了解、と俺は相槌を打った。
 そして、席から立ち上がろうとした。
 当然ながら、矢部も立ち上がろうと腰を上げた。
 ―――その瞬間だった。
 ふと視界には、歩行路を進む人の姿が映った。
 身体は動作を止め、瞬間的に声が出た。

「―――あっ」

 視線が外に釘づけになる。歩を勧めるその人物の背を目が追う。
 しかしながら、窓の面積は限られているため、ある地点からその人物の姿は見えなくなった。
 それでも名残惜しいのか、俺は外を見ていた。
 ぼんやりと夢見心地のような気分だった。
 そんな状態から脱したのは、矢部の一声のおかげだった。

「どうしたでやんすか?」
「……多分だけど、昔の知人がいた」
「友達でやんす?」

 違う。友人なんて関係じゃなかった。顔を合わしたので、一回だけだ。
 それでも、アイツの顔は今でもよく覚えていた。
 ……まあ、瞬間的なことだったから見間違いの可能性だってある。
 だが、見間違いだとは到底思えなかった。
 俺は首を横に振ると、

「いや、なんというか……あれだ、好敵手ってやつかな?」

 締りがない言い方だが、そう口にしておいた。
 好敵手? と矢部は首を傾げていたが。
 俺は詳しくは語ることなく、ほうける矢部を置いて、会計場所へと向かった。
 そして、だ。
 少々ばかり焦ったような顔をして、矢部は遅れて付いて来た。


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