過去ログ - 幸子「ドリーム・ステアウェイ」 みく「イントゥ・ヘル」
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酉付ける
◆.nnFO3p0tfz9
[saga]
2016/04/23(土) 23:51:15.09 ID:MreM/Vo1O
――その刃は、心臓を狙った筈だった。
肋骨の隙間を通り抜けるように、刃は横に倒されていた。
14歳少女の薄い体なら、心臓まで突き刺さるだけの長さを備えた刃だった。
ところどころ欠けている刃。
人間を刺した履歴が、刀身に刻まれていた。
「――すまないが、君の願いは叶わない」
その刃が、人の手に止められていた。
細く長くたおやかな、刃物には不釣り合いの白い指――
さりとて、不釣り合いさを言うならば、ナイフを握る城ヶ崎美嘉の手も、また同じく刃物にはそぐわない。
その手≠ェ奇妙であったのは、血が吹き上がる程に肉を抉られても、痛みに震える事も無く、荒々しく刃を抑える事もなく、静かに刃を食い止めていた点だった。
何処から現れたものか。
輿水幸子を背に庇うように立った彼女は、女性としては高めの身長ではあるが――決して逞しくはなく、力強くもなく、際立ってしなやかな体とも言えない。
だが――優美。
何がと言えば、立ち姿が、ナイフを持つ襲撃者へ送る微笑みが、血に濡れた指の形さえ、おそろしく様になる¥乱ォであった。
「さて――私の名前は知っているだろう、新しい候補者=c…輿水幸子君」
左手から血を流しながら、ナイフの刃を食い止めている彼女は、肩越しに背後を振り向いて、幸子の名を呼んだ。
出会った事のない女性だった。名前を聞いた事など無い筈だ。だが――
――ボクは、この人の名を知っている。
輿水幸子は、声にならぬ声で、彼女の名を呼んだ。
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