過去ログ - 幸子「ドリーム・ステアウェイ」 みく「イントゥ・ヘル」
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60: ◆.nnFO3p0tfz9[saga]
2016/04/27(水) 01:21:39.02 ID:pZ1nV2hYO
 四階廊下での戦闘で受けた干渉≠ヘ、あいが楓の視界から外れ、十分に時間が経過した事で、既に効力を失っていた。四肢には力が戻り、決して飛びぬけたものではない彼女の力だが、落涙尽きぬ楓の腕を押さえるには、過ぎたる程であった。

「もういい、貴女にそんな顔をさせてまで、続ける戦いではないでしょう……」

 楓の両目を手で覆い隠し、東郷あいは首を振る。
 その手を伝い、手首に届くまでの涙を流し、高垣楓が、子供のように泣きじゃくっていた。

「……だっ、駄目よっ、美嘉ちゃんが――美嘉ちゃんには、願いが、だって」

「その願いは、彼女と貴女とを傷つけてまで、本当に叶えるべきものですか……?」

「でも、約束したもの、美嘉ちゃんと……会わせてあげる、絶対って、だからっ」

「けれども貴女も知っている筈だ。彼女が夢を叶えるとしたら、それはガラスの棺で眠りながらだと。迎えに来る王子も無く、ただ一人打ち捨てられたまま、夢を見ているだけなのだと――そんなものの為に」

「分かってるわよっ! ただの虚しい夢だって、陽炎みたいなものだって……でも、見続けられるなら……!」

 もはや人ならぬ身、過去の偶像と成り果てた二人の間に、交わされる言葉は虚無的な響きを帯びている。
 夢――永遠に続く夢は、紛い物か、現実か?
 この問いに、ただ一つの答えを示せる者は、この戦場に居なかったが、

「……ごめんなさい、美嘉ちゃん……っ」

 それは現実だと信じる高垣楓が、膝から崩れて落ちた時、少なくともこの二人の間では、答えが決まったのだろう。
 歌姫≠フ体は、光の粒子となって風に溶け、吹き散らされて、空を恋うるように消えていった。
 戦いは決着した。
 敗者、城ヶ崎美嘉の体もまた、地に伏したまま光に包まれてゆく。
 立ち上がる事も出来ぬまま、伸ばした手が、何も掴めずに閉じられて、

「莉嘉……会いたいよ……」

 そして、消えた。
 幾つかの、小さな宝石だけを残して。城ヶ崎美嘉と高垣楓は、この世界から消え去った。


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