過去ログ - 探偵助手の僕が退魔師と組んだら -SS速報VIP

過去ログ - 探偵助手の僕が退魔師と組んだら

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1: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:16:48.84 ID:cyT7bhGXo
――――――――――

　この世なんか要らん。終われ。
　と、願っても終わってくれそうになかったので、こっちが終わってやろうと思った。
　月も見えない曇天の夜だった。

　住宅地では、どう頑張ったってダサくなる電飾が光っているんだろう。
　繁華街では、安っぽいインストゥルメンタルのクリスマスソングが、
押しつけがましく通行人を浮かれさせようと躍起になっているに違いない。

　ネオンもＢＧＭもここにはない。私が死のうとしているだけで、パッとしない普通の夜だ。
　靴を脱ぎ、後ろ手にフェンスを掴んで街を見下ろす。
　自分の現状を嘆いて自ら閉じる人生。
　珍しくはない。

　体温で溶けた雪が、靴下に染みて足の裏を濡らした。

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2: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:18:59.38 ID:cyT7bhGXo
　人が命を断とうとしているこの夜は、聖夜のくせに商業主義と資本主義がぎらついていて、
ついでに、一通りのプログラムを終え、締めに女をホテルに連れ込もうと「空室アリ」の表示を探す男の目もぎらついていて、
ちっとも神聖じゃなかった。ひたすら無粋だった。不躾で、野卑だった。

　私の死体が見つかったら、救急車が来るんだろうか。

3: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:20:37.08 ID:cyT7bhGXo

「やあ、いい夜だねえ」

　謡うように揺れる、男の声だった。

4: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:21:36.95 ID:cyT7bhGXo

「お手をどうぞ」

　手袋をしたままの、男の手が差し伸べられる。
　何の猜疑心も嫌悪感もなく、その手を取った。

5: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:22:47.01 ID:cyT7bhGXo

「生きる気にはなったけど、そいつを殺したくて仕方がないの。
　困ったな。元気になってもムショ暮らしなんて」

　初めて会った素性も知らない男に、私は何を喋ってるんだろう。

6: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:23:55.80 ID:cyT7bhGXo
　工作用の鋏でいい加減に切った不揃いな髪を風がなぶる。
　耳が痛い。
　思わず声を張っていた。

「そんな物騒なもんじゃないよ。ちょっと鍛えて研ぎあげてみたくなっただけさ。

7: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:25:07.76 ID:cyT7bhGXo

「気分のいい眺めじゃないだろう。目をつむった方がいい。なに、死にはしないよ」

　胸にはさらしをきつく巻いているのに、刃は易々と柄元まで通っている。
　刺されたのに痛みがなくて戸惑った。

8:名無しNIPPER[sage]
2016/04/26(火) 21:26:09.17 ID:0JI2Yrndo
なろうっぽいけどとりあえず期待

9: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:26:42.28 ID:cyT7bhGXo
「うん、もういいよ」

　体が自由になった。
　男は左手にトランクケースを携えて、右手にナイフを持っていた。
　私を刺したものらしい。

10: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:27:56.40 ID:cyT7bhGXo

「うん。ちょっとはマシな顔になったな。
　クリスマスは街がビカビカしてて喧しいから出歩くのは億劫だったんだが、思わぬ拾い物だったなぁ。
　じゃ、僕は行くよ」
「また会える？」

11: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:30:07.42 ID:cyT7bhGXo
――――――――――

　数日後に入学式を控えた、四月の夕方だった。

　僕は買い物を終えて駅前のマーケットから帰るところだった。

12: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:31:06.03 ID:cyT7bhGXo
　なんだ、パンツじゃないのかとがっかりしながら様子を見る。
　歩き方がおかしかった。

　なんとなく気になってついていく。
　これは尾行でもつきまといでもない。

13: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:31:58.48 ID:cyT7bhGXo
　僕に気付いたのかと思ったけど、彼女が振り返ったときの視線は僕を捉えない。
　訝しげに首を傾げてみるものの、すぐ頭を振って歩き出してしまう。

　――他にもいるのか？

14: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:33:01.94 ID:cyT7bhGXo
　ここで、彼女について歩いているのが僕だけではないことに気付いた。
　マーケットの人ごみの中にいて、そこから抜け出しても手ぶらのままで買い物が目的ではなさそうな男。

　後姿しか見えないが、背格好からして「おじさん」と呼ぶにははばかられるけど、その姿勢の悪さから老けて見える。
　この時期の夕方には少し寒そうな、薄手のモスグリーンのジャケットに濃いベージュのチノパン。

15: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:34:40.56 ID:cyT7bhGXo
　さっきから彼女が気にしていたのはこの男だろう。
　彼女はどんどん寂しい道に入っていく。

　――手を出していいのか？　思い過ごしだったら？

16: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:35:54.70 ID:cyT7bhGXo
　袋小路に入っていこうとする彼女を追っていく男に向かって、紙袋から出したリンゴを投げつけた。
　男の後頭部でリンゴがクラッシュして果汁と砕けた果肉が髪と襟を汚す。
　男が振り返った。

「逃げろ！」

17: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:37:47.13 ID:cyT7bhGXo
　あごがしびれる。口の中がしょっぱい。
　鉄臭い。
　目の前がちかちかする。
　畜生。
　殴られたのか。

18: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:39:08.04 ID:cyT7bhGXo

「飛ぶから力まないで。逆らったら落ちる」

　「飛ぶ」って？　この子は妖族だったのか？
　もしかしたら一人で戦えたかもしれないのか？

19: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:40:13.42 ID:cyT7bhGXo

「いってえ」

　ビルの屋上のコンクリートに投げ出され、腕を擦りむいた。
　埃まみれになった体を払う気力もない。

20: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:41:44.36 ID:cyT7bhGXo

「何考えてんだよ！　襲われるところだったんだぞ！」

　でも怒るべきところは怒る。
　僕は無駄死にしていたかもしれないのだ。

21: ◆CIZA6sfEUc[sage saga]
2016/04/26(火) 21:43:21.13 ID:cyT7bhGXo
「あいつがこだわるのは金の目だから」

　と、レンズの入ったケースを見せる。
　犯人の「好み」に合わせたってことか。

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