過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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106: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/15(水) 01:04:06.49 ID:daPPk+Poo

「あっ、せっかくだからお前の描いた絵、見せてやったらどうだ? 飛鳥はともかく、幸子の分は用意してやれないからさ」

「ふぇっ!? ……うむ。今を以て、禁忌を破らん(ふぇっ!? ……うん。二人にも、見せてあげるね)」

 おずおずと開かれたページにはボクららしき人物が彼女の理想の衣装を纏っていた。衣装の描き込み量は尋常ではないのだが、顔や細かなパーツはデフォルメされている。
 真ん中の背を低く描かれた少女、おそらく幸子は白を基調としている。左右で対をなしているボクと蘭子は黒が基調だ。
 色の統一は取れていないが、統率は取れていそうだ。彼女がセンターならこれはこれで面白いかもしれない。

「も、もういい? いいよね? ね?」

 顔を真っ赤にさせた蘭子はボクらの返事を待つまでもなくスケッチブックを閉じてしまった。よほど恥ずかしかったに違いない。
 そして幸子はというと、除け者にされた挙句こんなものまで見せられてはふてくされるだけでは収まらないだろう。
 そう思っていたのだが、幸子はやれやれと肩まで手を上げて首を振った。

「まぁ、仕方ないですね。お二人がお似合いなのはボクも最初から思っていましたし。ボクはボクで所属しているユニットもありますから、何も気にしてませんよ」

「おっ、聞き分けがいいじゃないか。どうした幸子?」

「……あの、ボクを甘く見てません? プロデューサーさんのおかげでお祝いの席になってしまいましたから、水を差すような真似はしませんとも。それより飛鳥さんの門出の日も近いことですし、もっと盛り上がっていきましょう!」

「よっ、イイ女! さすが幸子、カワイイ!」

「フフーン、今頃気付いても遅いですよ!」

 二人で盛り上がってる傍らで、ボクと蘭子は何の合図もなくお互い視線を合わせていた。
 幸子はボクらのユニット結成に文句はなくても、そこに自分だけいないということに思うところはあるはずだ。そんな素振りすら見せまいとする彼女の手前、蘭子もこの場ではあまり素直に喜べないでいた。
 解りにくい優しさを持つ彼女のために、ボクも正直になるとしようか。

「幸子」

 なんですか? とカワイく首を傾げる幸子へ、布告する。

「前にキミが言っていたアイドルになって目指したいもの、ボクにも見えてきたんだ。ボクは……ボクのようなヤツでも輝ける場所を得られた。独りのセカイに閉じ込もっていたはずのボクが、さ」

 此処へ来るまでに、名前も知らない彼女が教えてくれた。
 ボクのようなヤツだからこそ、歌声に乗せて伝えられることがあることを。
 彼女だけじゃない。世界にはボクの同類が他にもいるのだろう。世界に抵抗して、なかなか報われないでいる彼、あるいは彼女らが。
 そんなヤツらに届けたい。この世界も捨てたものじゃないと。いつか共に解り合っていけそうな人が現れるまで、ボクが受け皿になろう。

 ボクが輝けているうちは、キミらを独りにさせたりしない。
 さぁ、ボクと共鳴していこうじゃないか。

「ボクにも輝きたい理由が出来た。ボクなりに、アイドルってヤツをやっていけそうだよ。キミがキミの往く道を示してくれたおかげだ。ありがとう、幸子」

「……なんだ、もう大丈夫そうですね。飛鳥さん、今日からあなたはボクのライバルでもあるんですから、容赦しませんよ!」

「フッ、望むところさ」

「う〜。我も混ぜよ! 我にも目指すべき頂があるぞ!(う〜、私も混ぜて! 私にもアイドル活動の目標があるの!)」

 蘭子も加えて、ボクらは各々が見据えた未来を語り合う。悲観せずに将来のことを語る日が来ようとは、ボクもだいぶ変わってしまったみたいだ。
 そんなボクへと変えた彼は、ボクらがひとしきり語り終えるまで一言も口を出さずに耳を傾けていた。


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