11:名無しNIPPER
2016/05/03(火) 22:44:11.18 ID:G1lrEIoLo
別れの挨拶もそこそこにボクより一回り小さな背中を探して追い付くと、小言は既に止んでいた。
「飛鳥さんも寮にお帰りでいいんですよね?」
先ほどのやり取りを気にした素振りもなく、何気ない世間話を持ち出してきた。慣れているのだろうか。
ほっとした息が漏れてしまわないように気を付けて、返事をする。
「あぁ。キミもかい?」
「ボクの家からここまで通い詰めるのはさすがのボクも少し無理がありますからねぇ。山梨県なのでそう遠くもないですけれど。世界がカワイイボクを望んでいるので仕方ないんです」
「山梨、か。なるほどね」
「? 飛鳥さんの出身はどちらで?」
「静岡さ」
隣接しているから何だというのか、しかし全国から人が集まっていると僅かながら親しみを感じてしまうものだ。
もっともボクらの間となると、そこに下らない論争がつきまといがちだが。
「フフーン、富士山はボクのものですからね♪」
そうきたか。
「好きにするといい。ボクはどっちだっていいしね」
「ではそうします。日本一高い山には日本一カワイイボクこそふさわしいんです!」
「たいした自信だ。見習いたいよ」
「どんどん見習ってください、じゃないと一番になれませんよ!」
一番、それはトップアイドルという意味だろうか。彼女のことだから可愛さかな。
ボクは可愛くなりたいとは思っていない。ただ自分のセカイを表現するためにいろいろ気は遣っている。このエクステもそうだ。
「……キミは一番になりたいのかい?」
「なりたい、じゃなくてなるんですよ。いいえむしろなってます! ボクをカワイイと言ってくれる人がいるんです。ボクがボクをカワイイと思わないでどうしてカワイくなれますか?」
「我思う、故に我在り……とは異なるか。でも、そうだね。その通りだ」
「飛鳥さんもせっかくアイドルになったんですから、自分のなりたいものを目指してみては? カワイさ以外でならきっとどうにかなりますよ。プロデューサーさんもついてますし」
幸子にとってアイドルはどうやら手段でしかないようだ。
生憎ボクもアイドルそのものになりたくてこの世界に入ったわけじゃなく、初めてボクを解ってくれた人に誘われるがまま非日常へ入り込んだまでだ。アイドルも、まぁ悪い気はしていないけど。
ボクは何になりたいんだろう。もしくは何をしたいのか。ボクは何者であるかを、アイドルとして歌やダンスで表現する……存在証明?
よくわからない。アイドルとしてのボクはまだ、そんなことを考える余裕はない。
少しだけ、幸子がアイドルの先輩らしく見えた。
これが彼女のセカイなのか。
「ではここで、ボクがどれぐらいカワイイかというお話を特別にしてあげますね。そうですねぇ、あの時の話をしましょう」
「……」
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